「焼きばめとは?」作業のポイントや注意点について詳しく解説
機械の組み立てを行うときによく用いられる方法の1つに「焼きばめ」が有ります。
原理としてはある程度分かっていたとしても、実際に作業を行う時に何に気を付ければ良いのか?がイマイチ分からない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「焼きばめ」作業を行ううえでの重要ポイントや注意点について解説していきます。
焼きばめは「段取り」と「素早さ」が肝心です
「焼きばめ」とは?
「焼きばめ」とは、熱を加えて温めると膨張するという鉄の特性を利用して組み立てを行う工法のことを言います。
例えば穴径が軸径より小さいギアと軸があったとします。このままの状態でギアの穴に軸を入れようとしても、穴径が軸径より小さいわけですから入ることはありません。
ギアをバーナー等で加熱すると、熱で膨張して穴径が少し広がります。僅かでも軸径より穴径が大きくなれば、簡単に軸をギアに組み込むことが出来ます。これが「焼きばめ」です。
「焼きばめ」のメリット
焼きばめは常温のままでは入らなかった穴を熱膨張で広げて軸を入れます。その為冷えて穴が元の大きさに戻ると、軸と固着してかなり強い結合力を得ることができます。
主な用途としては巻上装置などの大きな荷重が掛かる部分の駆動部分です。このような部分を「中間ばめ」で組み立ててしまうと、平行キーとキー溝の部分が回転方向に叩かれてすぐ駄目になってしまいます。
焼きばめは軸と穴が完全に固着する為、キーの部分が動いて叩かれて摩耗していくといった不具合が発生しにくい状態になります。
このように、負荷や荷重が大きく稼働条件が厳しい駆動部分に焼きばめを用いることで、機械の長寿命化を図れるというメリットが存在します。
「焼きばめ」のデメリット
焼きばめはギアや車輪等を熱膨張させて軸に取り付けるという工法上、一度取り付けると取り外すのが大変というデメリットがあります。軸に組まれた状態で取り外す場合は、ギアや車輪を加熱してもう一度熱膨張させて取り外さなければなりませんが、軸と密着しているので軸にも熱が伝わってしまいます。その為、軸から取り外す方向に油圧等で力を掛けながら、熱が軸に出来る限り伝わらないように加熱するなど、熟練の技術が必要になります。
また、ベアリングに対して焼きばめを用いて組み立てを行う場合が有りますが、締め代を考慮しておかないと部材が冷えて元に戻った瞬間に回転出来なくなるという事象が発生するリスクもあります。
実際私の職場でも、設計担当が締め代の数値を誤って図面に記載していた為、図面通りに車輪を加工後に「焼きばめ」で組んだベアリングが回らなくなったという不具合が発生しました。
デメリットについても合わせて覚えておいて下さい。
「焼きばめ」の作業ポイント
「焼きばめ」を行ううえでの作業ポイントです。
組み込む軸や穴に傷がないか確認する
組み込みを行う前に部材の軸や穴に傷がないか、指で触る等して確認することが大事です。もし部材に傷やゴミが付着していた場合、組み込みがスムーズに行えないばかりか、カジリ等を起こして途中から動かなくなることもあります。このような状態になってしまうと、最悪の場合元に戻せなくなる場合があるので充分注意して下さい。
清掃や手入れをしっかり行ってから作業を始めるようにしましょう。
組み込む前に最大締め代を確認する
図面にて指示されている最大締め代(軸の最大公差と穴の最小公差)を確認します。
図面での確認が出来たら現物をマイクロメーター等で実測し、実際の加工仕上がり寸法を記録しておきます。
加熱する温度を計算する
何℃にまで加熱すれば余裕隙間を作ることが出来るかを計算します。
焼きばめを行う部品の加熱後の温度をtとすると下の式が成り立ちます。
・t(℃)=Δt(℃)+室温(℃)
・Δt(℃)=Δd/(d×α)
各記号はそれぞれ以下の意味になります。
- Δt:加熱温度(℃)
- Δd:最大締め代+余裕隙間(d×1/1000を目安とする)
- d:加熱する部品の内径(㎜)
- α:線膨張係数(鉄≒1×10-5と考える)
EX.
以下のような条件で考えてみましょう。
- ギア穴径:50.000㎜〜50.025㎜
- シャフト軸径:50.043㎜〜50.059㎜
- 室温:20℃
最大締め代は、軸公差による最大値=50.059㎜と穴公差による最大値=50.000㎜であることから、50.059㎜−50.000㎜=0.059㎜となります。
ここで、余裕隙間はd×1/1000を目安とするので50㎜×1/1000=0.05㎜となります。
よって、Δdは0.059㎜+0.05㎜=0.109㎜となります。
Δtを求める為に上の式に数字を当てはめると
Δt=0.109/(50×1×10-5)
Δt=0.109/(50×1×1/100000)
Δt=0.109/0.0005
Δt=218(℃)
上記の式で計算したΔt=218を用いて加熱後の温度tを計算すると
t=218(℃)+20(℃)
t=238(℃)
したがって、ギアを238℃まで加熱すると最大締め代に対して余裕隙間を作れるということになります。
部品を加熱する
部品全体を均等に加熱していきます。
ベアリングヒーターに代表される誘導加熱装置や油焼きといった方法を用いて加熱できれば一番いいのですが、現場の組立作業で焼きばめを行う場合はガスバーナーを使うことが多いかと思います。
バーナーで加熱する場合は外径の大きいところから順番に行っていきます。1カ所を集中的に加熱するなど、局所的な加熱は避けて下さい。
加熱は部品の温度を放射温度計で測定しながら行っていきましょう。
加熱後の穴径測定
部品の加熱が終わったら、軸径に対して穴径が広がっていることを測定して確認します。棒ゲージといった素早く測定できるような治具があれば、よりスムーズに作業を進めることが出来ます。
部品を組み込む
熱いうちに出来るだけ素早く部品を組み込みます。組み込みに時間を掛けてしまうと、加熱した部品が冷えて穴が収縮したり、軸に熱が伝わって軸が膨張するなどして上手く組み込めなくなる場合があります。
途中で止まったりしてしまうとリカバリーが大変なので、異変を感じたら直ぐ取り外すなど、慎重かつ素早く作業を行うようにしましょう。
組み込み姿勢を工夫する(軸を縦にして上から落とし込むように組み込む)のも効果的です。
当たり前ですが、加熱した部品はかなり熱くなっていますので、分厚い革手袋を使用するなど火傷を負わないよう安全にも充分配慮して作業を行って下さい。
まとめ
以上、焼きばめについての作業ポイントや注意点についてお伝えしました。
焼きばめは準備や確認といった事前の段取が最も大事なポイントになります。
作業中の不具合やミスによる後戻り作業が発生しないよう、事前の段取りをしっかりと行って下さい。
皆さんの作業における一助になれば幸いです。