【ブレーカの引きはずし装置とは?】上手く活用して作業者の安全を確保しよう!
配線の短絡や地絡事故を制御盤や分電盤の中で見守ってくれている「ブレーカ」。
ブレーカ本体が二次側配線の短絡や地絡による過電流を検知したら、回路を遮断(トリップ)して事故を防いでくれます。
ただ、設備に人が挟まれそうになったり機械が暴走してしまった時など、人が危険な状態にさらされていたとしても、ブレーカは自ら機械の電源を遮断して助けてくれることはありません。
かといって、人が危険な状況になった瞬間ブレーカを遮断しにいっても、盤までの移動に時間を要してしまい、深刻な事態になりかねません。
このような時に役に立つ機構、それがブレーカの引きはずし装置です。
この記事では、遠隔でブレーカを遮断できる「ブレーカの引きはずし装置」について種類や特徴について解説します。
ブレーカの引きはずし装置を活用して、より安全な設備を目指して下さい
設備を安全に停止させるには?
機械設備を電気的に止める方法は様々ありますが、最も安全かつ確実に止める方法は機械設備へのエネルギー供給を完全に遮断することです。
装置を制御的に「設備停止」させるという方法もありますが、この方法は制御装置などが装置を一時停止させている状態にすぎない為、安全な状態とは言えません。
そもそも制御装置は暴走する可能性が0ではないほか、ノイズや故障で誤動作することも考えられます。
なので、設備を安全に止めるには動力源を遮断して電気の供給をシャットアウトすることが重要なのです。
ブレーカの引きはずし装置とは
ブレーカの引きはずし装置とは、ブレーカを離れた場所から電気的な仕組みでトリップさせてくれる内部装置です。
この仕組みを利用することで、ブレーカを即座にトリップできる非常停止回路を構築することができます。
引きはずし装置はブレーカの付属装置オプションとして付けることができ、最初から装置付で指定して購入する場合と、ユニットだけ購入して既存のブレーカに後付けする場合と2パターンがあります。
引用先:MonotaRO(電圧引外し装置付安全ブレーカ)
引用先:MonotaRO(電圧引きはずし装置)
最近では引きはずし装置のユニットを別途購入して後付けするタイプが増えてきました。
引きはずし装置の種類
ブレーカの引きはずし装置には次の2種類があります。
- 電圧引きはずし装置
- 不足電圧引きはずし装置
それぞれの特徴について解説します。
電圧引きはずし装置
電圧引きはずし装置とは、接続した端子もしくはリード線に規定の電圧を加えることでブレーカをトリップできる装置です。
三菱電機では「SHT(シャント トリップ)」と表現されます。
引用先:三菱電機(低圧遮断機「付属装置・関連機器」)
図のようにブレーカーの装置に接続した端子にスイッチを押すなどして電圧を加えます。すると、電圧引きはずし装置のトリップコイルが働いてブレーカを即座に落とすことができます。
SHTの接続図①
接続は上図のように行うことができます。
S1とS2が電圧引きはずし装置の端子で、そこにブレーカの二次側からとった電源を接続します。そのまま接続してしまうと電源を入れた瞬間ブレーカがトリップしてしまうので、非常停止スイッチのa接点を間に接続します。こうすることで、非常停止スイッチを押した瞬間S1−S2に電圧が掛かってブレーカがトリップし、モータやヒータを即座に止めることが出来るわけです。
SHTの接続図②
上図は、電圧引きはずし装置に掛ける電源電圧AC1−AC2を別のところからとる場合の接続図です。
AC1−AC2間に電圧引きはずし装置の定格電圧を常に印加させておけば、非常停止SWを押すことでS1−S2間に定格電圧が掛かってブレーカがトリップする仕組みです。
ブレーカの二次側に電圧引き外し装置を接続できない場合には、このような接続を行うこともできます。
ただしこの回路ではAC1−AC2間に電圧が掛かっていなくてもブレーカを投入することができますし、その場合非常停止SWを押してもトリップさせることができません。
余程の理由が無い限りは、非常停止SWでトリップさせたいブレーカの二次側に接続する接続図①の方が良いと思います。
SHTの定格電圧
電圧引きはずし装置のコイル電圧の定格はおおむね以下の通りです。
- AC:100〜120V、200〜240V、400〜440V
- DC:100〜125V
メーカーや機種によって使用できる電圧が異なりますので、仕様をよく確認してご自分の使用目的にあった定格電圧のものを選択しましょう。
SHTの許容操作電圧範囲
電圧引きはずし装置にかける入力電圧が電圧降下等で低くなると、正常に動作しない可能性があります。
各メーカーとも定格電圧の70%〜110%で使用するよう規定しています。特に定格最小値の70%は下回らないように充分注意しましょう。
不足電圧引きはずし装置
不足電圧引きはずし装置とは、接続した端子やリード線にかけた電圧が規定値以下まで下がったとき、トリップコイルが働いてブレーカをトリップさせる装置です。前項の電圧引きはずし装置とは逆の動作になります。
三菱電機では「UVT(アンダーボルテージトリップ)」と表現されます。
引用先:三菱電機(低圧遮断機「付属装置・関連機器」)
図のようにブレーカの一次側端子へ接続することで、一次側電源の電圧が下がるとトリップコイルが働いてブレーカをトリップさせます。こうすることで、電源電圧低下による設備の誤動作を防ぐことができます。
また、電源電圧が正常な数値まで復旧しないとブレーカが投入できない為、ヒューマンエラーも同時に防ぐことが可能です。
この不足電圧引きはずし装置を使って非常停止回路を組むと次のようになります。
UVTの接続図①
UC1とUC2が不足電圧引きはずし装置の端子で、そこにブレーカの一次側からとった電源をそれぞれに接続します。そして、その配線の間に非常停止スイッチのb接点を入れれば回路が完成します。
この回路では、非常停止スイッチを押すとUC1−UC2に電圧がかからなくなるので、不足電圧引きはずし装置が働いてブレーカがトリップし、モーターを即座に停止することができます。
尚、元電源ブレーカの一次側に配線を接続する場合は短絡保護のためヒューズを必ず設けるようにして下さい。ブレーカの一次側で万が一短絡事故が発生した場合、更に上位の遮断器を落としてしまうことになり、事故が様々なところに波及する恐れがあります。
UVTの接続図②
上図は、不足電圧引き外し装置に掛ける電源電圧AC1−AC2を別のところからとる場合の接続図です。
これについても、AC1−AC2間に不足電圧引きはずし装置の定格電圧を常に印加しておけば、非常停止SWを押すことでUC1−UC2間に定格電圧が掛からなくなり、ブレーカがトリップする仕組みになっています。
ただしこの回路の場合、ブレーカの電源電圧の異常で1次側電圧が低下しても、AC1−AC2の電圧に変化がなければブレーカはトリップしません。また、ブレーカの電源電圧が正常でも、AC1−AC2の電圧に異常があればブレーカがトリップしてしまいます。
よって特段の理由が無い限りは、トリップさせたいブレーカの一次側に接続する接続図①を選択する方が安全性は高いでしょう。
UVTの定格電圧
不足電圧引きはずし装置の定格電圧は、おおむね電圧引きはずし装置と同じぐらいのレンジになります。
ただ、不足電圧引きはずし装置についてもメーカーや機種によって細かい部分が異なるので、必ず仕様を確認してから使うようにしましょう。
UVTの動作電圧範囲
不足電圧引きはずし装置は、印加されている電圧が定格電圧の70%〜35%まで低下すると動作します。(東芝製は75〜35%)
一旦動作すると、定格電圧の85%以上まで印加電圧が戻らないとブレーカが入らないようになっています。
非常停止回路はどっちが向いているか?
設備を確実に停止させて作業者の安全を確保する非常停止回路、「電圧引きはずし装置」と「不足電圧引きはずし装置」とではどちらを採用するべきなのか?
それは不足電圧引きはずし装置の方です。
その理由について解説します。
非常停止スイッチを押したときの信頼性
電圧引きはずし装置はスイッチのa接点で回路を作って動作させるのに対して、不足電圧引きはずし装置は回路をb接点で切って動作させます。
接点が何らかの原因で接触不良を起こしていた場合、前者ではスイッチを押しても動作しない可能性があります。
他の安全装置でもそうですが、ONにして動作させるよりもOFFにして動作させるほうが安全上は信頼性が高いです。
配線が切れると動作する。
電圧引きはずし装置の場合、装置の配線が断線してしまうとスイッチを押しても動作しません。スイッチを押して動作しないことで初めて断線していることに気づくことになります。
一方、不足電圧引きはずし装置の場合は配線が断線した瞬間に動作するので、異常を感じた人が直ぐに点検・修理をするという行動に繋げることができます。
故障時には安全側に働くというフェールセーフの考え方ですね。
この考え方に基づくならば、やはり不足電圧引きはずし装置の方が安全であると言えます。
特性を理解して使い分けよう
以上、ブレーカの引きはずし装置の特徴と非常停止回路への使い方について解説しました。
引きはずし装置は非常停止回路だけでなく、特定の設備が立ち上がっていないと電源を投入できないようにするなど、様々な思想の安全回路に応用することが可能です。
それぞれの引きはずし装置の特性を理解し、上手く活用してより安全な設備の構築を目指していきましょう。