【仕事の基礎知識】ケミカルアンカーとメカニカルアンカーの違いについて詳しく解説
突然ですが、「アンカーボルト」ってご存じでしょうか?
建設関係や土木関係の仕事をしている方でしたらご存じかと思いますが、知らない方も多いかと思います。
僕の仕事はどちらかというと建設業に近い仕事になるのですが、「アンカーボルト」を使う場面は非常に多いです。
アンカーボルトの種類には大きく分けて「メカニカルアンカー」と「ケミカルアンカー」があります。
僕は仕事でどちらも使いますが、用途や場面によって使い分けが必要です。
この記事では、これまで僕の経験で得た知見等をお伝えできればと思います。
それぞれの特性を理解して使い分けましょう!
1.アンカーボルトとは?
アンカーボルトとは、床や壁や天井に機器を固定する為コンクリートに埋め込むボルトのことを言います。
コンクリートにボルトを打ち込む方法は沢山有ります。コンクリートを新しく打設する前にあらかじめアンカーボルトを設置しておく方法、コンクリートが固まった後もしくは既存のコンクリートに穴を開けてアンカーボルトを埋め込む方法などなど。今回は既存のコンクリートに後から打ち込む「あと施工アンカー」についてのお話です。
2.アンカーボルトの種類
アンカーボルトにはいくつかの種類があります。
2−1.メカニカルアンカー
メカニカルアンカーに代表されるのが「芯棒打ち込み式アンカー」だと思います。別名オールアンカーとも言います。特徴は芯棒と呼ばれる釘が備わったアンカーボルトで、穴を開けたコンクリートにこのオールアンカーを差し込み、ハンマーで芯棒を叩くことでアンカーボルトの先端が「たこウインナー」のように広がって穴の側面に引っ掛かり、ボルトが固定されるという仕組みです。
このオールアンカーはコンクリートに穴され開ければ、後はハンマー1本でアンカーボルトを打ち込むことが出来るので、簡単かつ素早く施工することが可能です。その割にしっかりとコンクリートに固定出来るので、安全柵やフェンスの設置等幅広い用途で使用されています。
コンクリートの穴の内側に引っ掛けて固定する方式のタイプは他にもあります。
スリーブ打ち込み式アンカー
芯棒打ち込み式アンカーとコンクリートに固定する原理は同じですが、スリーブ打ち込み式アンカーの場合はボルト本体を専用の治具を介してハンマーで打ち込みます。スリーブ打ち込み式の場合は、ボルトの外側にあるスリーブが穴の中で広がって穴の内側に引っ掛かり、固定されるという構造になっています。
締め付けアンカー
締め付けアンカーは穴を開けたコンクリートに本体を挿入するところまでは同じです。打ち込み式と違うのは、本体を穴に挿入後トルクレンチでアンカーボルトのナットを締め付けるという施工方法です。先端が広がって固定されるという仕組みは打ち込み式と同様です。
2−2.ケミカルアンカー
ケミカルアンカーはコンクリートに穴を開けるところまでは同じですが、アンカーボルトを固定する仕組みがメカニカルアンカーと異なります。ケミカルアンカーは「ケミカル」というだけあって、接着用溶剤を化学反応させることでボルトをコンクリートに固着させる「接着式」という仕組みになっています。
ケミカルアンカーにも施工方法の違いによって種類があります。
注入方式
注入方式の場合は、コンクリートに開けた穴に専用の薬液を注入し、その穴にボルトを挿入して固着するまで待つ方式です。使用するアンカーボルトはメカニカルアンカーとは違い、普通の寸切りボルトを使用します。
このようなネジ部分だけのボルトですね。
カプセル方式
カプセル方式は薬液がガラス管や棒状の袋に入っているものを使用する方式です。コンクリートの穴の中にカプセルを先に入れて、その後寸切りボルトを差し込むことで薬液が漏れ出し、それが固まることで接着できるというものです。使用する寸切りはボルトは一般的に先端が尖っている(斜めカット等)ものを使用します。
3.各アンカーボルトの特徴について
各アンカーボルトの特徴についてそれぞれの違いをまとめてみました。
アンカーボルトの引張強度
- メカニカルアンカー:〇
- ケミカルアンカー:◎
引張強度は間違いなくケミカルアンカーの方が上です。同サイズ(太さ)のものであればケミカルアンカーの方が約2倍程度の引張強度を持っています。メカニカルアンカーの場合は穴の側面に食い込んだりして固定されているのに対し、ケミカルアンカーの場合は接着剤でガチガチに固まっているので、強度はケミカルの方に軍配です。ケミカルアンカーを施工したときに接着剤が穴からはみ出してくるのですが、これが固まるとコンクリートみたいに硬くなります。確かに凄い固着力です。
施工のしやすさ
- メカニカルアンカー:◎
- ケミカルアンカー:△
施工のしやすさはメカニカルアンカーに軍配が上がります。コンクリートに穴を開けるところまでは同じですが、メカニカルアンカーの場合は穴にアンカーボルトを入れてハンマーで叩くだけで施工出来ます。対してケミカルアンカーは薬液を注入したりカプセルを入れて中で撹拌するなど、何かと道具や手間が掛かります。加えて施工した後に定められた硬化時間まで触らないように注意する必要も有ります。
引張強度をあまり必要としない場合は、メカニカルアンカーで施工する方が手間や時間が掛からないでしょう。
据え付けるものの位置決めのしやすさ
- メカニカルアンカー:◎
- ケミカルアンカー:△
アンカーボルトは基本的にコンクリートの床や壁に機械や柵等を固定するために施工します。その機器や柵を据え付ける時に、ある程度位置決めした後に微調整してから固定しますが、その位置決めのしやすさが異なります。
メカニカルアンカーの場合、例えばM12であれば下穴のサイズはφ12.7mmになります。M16であればφ17mmとなります。機器を固定する時はM12であればφ14mm、M16であればφ18mmぐらいの取付穴が一般的です。なので、機器を据え付けたい位置にきっちり位置決めしてから取付穴にドリルをそのまま通すことが出来ます。要は機器を位置決めしてから施工することが可能なんです。
ケミカルアンカーの場合、M12であれば下穴のサイズはφ14.5mmになり、M16であればφ19mmとなりメカニカルアンカーの下穴よりもサイズが大きくなります。機器の取付穴が下穴よりも大きくしてあればいいですが、そうでない場合も多いです。なので、機器を据え付ける場所に位置決めした後にマーキングを行い、機器を一旦どけてからアンカーボルトを施工するという手間が発生することになります。全くズレずに施工出来れば良いですが、アンカーボルトを施工してから機器を据え付けようとした時に、「位置が合わない!」といった事態にもなりかねません。そもそもアンカーボルトを先に施工することでそれが邪魔になり、余計な仕事が増えるということもよく有ります。この辺はいかに手間を最小減にして施工できるかの工夫が必要になってきます。
手に入りやすさ
- メカニカルアンカー:◎
- ケミカルアンカー:〇
ホームセンターでもProショップのような専門的なところであれば、メカニカルアンカーもケミカルアンカーも販売しているケースが多いです。M12〜M16ぐらいのサイズのものであれば比較的容易に手に入ります。
価格
- メカニカルアンカー:◎
- ケミカルアンカー:△
ケミカルアンカーの方が部品点数が多い(寸切りボルト+接着薬液)ので、やはり1本当たりの価格は高くなります。M12の場合、メカニカルのオールアンカーで1本当たり約¥100円程、ケミカルアンカーで1本(寸切り+接着薬液)で¥300円程になります。
4.メカニカルアンカーのメリット
メカニカルアンカーのメリットです。
・素早く施工できる
コンクリートに穴を開けることさえ出来れば、あとはアンカーボルトを入れてハンマーで打撃するだけになります。なので、数が多い場合でも比較的早く施工することが可能になります。
・施工して直ぐに固定できる
メカニカルアンカーはコンクリートの穴の側面に引っ掛かるようにして固定されるので、正しく施工すれば施工した瞬間から最大引張強度を発揮することができます。
・価格が安い
1本当たりの価格が安いので、要求される引張強度に問題が無ければ施工する本数が多いほどケミカルアンカーよりコストダウンが図れます。
・施工時の天候や環境に影響されにくい
暑い時期や寒い時期、雨の日や氷点下の冷凍庫の中等、周囲の環境にあまり影響されることなく施工することができます。
5.メカニカルアンカーのデメリット
メカニカルアンカーのデメリットです。
・大きな引張強度は得られない
固定の仕組み上、ケミカルアンカーと比較すると引張強度は劣ります。また、メカニカルアンカーは最大サイズがM20ぐらいである為、太さで引張強度を稼ごうとしても限界があります。
・振動や衝撃に弱い
電車やクレーンのレールの固定等、振動や衝撃荷重が繰り返し発生するような箇所には不利です。振動や衝撃がアンカーボルトに加わると、コンクリートと接している面が割れて抜けたり緩んだりするからです。フェンスや制御盤など、動力源を持たないような機器の固定に使用するようにして下さい。
6.ケミカルアンカーのメリット
ケミカルアンカーのメリットについてです。
・大きな引張強度が得られる
同サイズのメカニカルアンカーと比較して、大きな引張強度を得ることができます。なので、大きな機械の据え付けや天井からの吊り下げ等に威力を発揮します。M36のケミカルアンカーともなれば、最大引張荷重は33tにもなります。
・振動や衝撃に強い
ケミカルアンカーは振動や衝撃にも強い為、工作機械等の振動が大きな機器の固定に向いています。コンクリート上のレールを走行するクレーンのレールの固定もケミカルアンカーです。大きなクレーンになると走行時の振動やレールの継ぎ目を通過するときの衝撃がかなり大きい為、かならずケミカルアンカーを使用するようにしています。
・水中でも使えるものもある
使える種類や条件はあるものの、水中で使えるものも販売されています。
7.ケミカルアンカーのデメリット
ケミカルアンカーのデメリットです。
・施工に手間が掛かる
ケミカルアンカーはメカニカルアンカーと違って必要な道工具類が少し増えます。注入式であれば薬液の入ったカートリッジと注入用のディスペンサー、カプセル式であれば薬液の入ったカプセルに撹拌用に電動ドリルが必須になります。それらの道具を使用し手順を追って施工する必要があるので、1本当たりに掛かる時間がメカニカルアンカーよりも多くなります。
・コンクリートに開けた穴の清掃をしっかり行う必要がある
コンクリートにコンクリートドリルで穴を開けると中に粉が溜まります。メカニカルアンカーでもケミカルアンカーでも穴の中の掃除は必ず行う必要があるのですが、ケミカルアンカーの場合は特にしっかり掃除を行わないと本来の引張強度を十分に発揮できないことがあります。メカニカルアンカーの場合は多少残っていてもあまり問題にはなりませんが、ケミカルアンカーの場合は穴の側面をブラシで清掃し、掃除機で粉を吸う等して出来る限り中に粉が残らないようにすることが不可欠です。
・コンクリート下の鉄筋に干渉しやすい
メカニカルアンカーと比較してケミカルアンカーは穴をより深く掘る必要があるのですが、穴を深く掘ろうとしたときに問題になるのがコンクリート下にある鉄筋です。穴を深く掘ろうとしたときに、途中で鉄筋にドリルが当たってそれ以上掘り進めることができないというケースがよく発生します。しかも鉄筋はかなり硬い為、コンクリートドリルでそのまま穴を掘ろうとしても全く歯が立ちません。なのでこの場合、穴を開ける場所を変更するか鉄筋までの穴の深さで施工するかの2択を迫られることになります。
・施工後のボルトの根元を都度掃除する必要がある
ケミカルアンカーを施工した直後に穴から接着剤がはみ出してくることがよくあるのですが、この接着剤が根元で固まってしまうと取れなくなってしまいます。なので、硬化する前に1本1本掃除する手間が発生します。
・硬化に時間が掛かる
ケミカルアンカーは施工した後に定められた硬化時間を取る必要があります。この硬化時間は気温によって変わり、気温が低くなるほど長くなります。硬化時間を過ぎると最大強度の約80%ぐらいは発揮できるようになりますが、ボルトの本締めは一晩経ってから行うことを推奨します。
・長期の保存ができない
ケミカルアンカーの接着用溶剤の保存期間は1〜2年、長いものでも3年ぐらいです。なので、工事で大量に余ったケミカルアンカーの接着用溶剤を保存する場合は、有効期限を管理する必要があります。有効期限が切れたケミカルアンカーは使用出来ませんので注意して下さい。
8.特性を理解して使い分けましょう
以上、メカニカルアンカーとケミカルアンカーの違いというちょっとマニアックなお話でした。
どちらのアンカーボルトにも得手不得手が有り、場面場面に応じて使い分けが必要です。双方の特性を理解して上手に取り入れていって頂ければと思います。仕事でアンカーボルトを使用されることが多い方にとって、少しでも参考になるような内容であれば幸いです。
ちなみに僕が最強だと思っているケミカルアンカーは「旭化成 カプセル型 ARケミカルセッター AP」です。
ケミカルアンカーで信頼性の高い製品をお探しの方は是非チェックしてみて下さい。冷凍倉庫の中でも使える逸品です。