【違いは何?】ワイヤーロープとナイロンスリングの特徴やメリット・デメリットについて

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重量物を持ち上げるために工場や工事現場などで活躍しているクレーン。

そんなクレーンで吊り作業を行うにあたり、欠かせない道具のひとつが玉掛け用のワイヤーロープです。

ワイヤーロープには様々な「太さ」もしくは「長さ」のものがあり、吊り上げる物の重量や場面に応じて使い分けがなされています。

一方で、ワイヤーロープの代替品として同じぐらいよく使われているのが、「ナイロンスリング」と呼ばれる帯状の吊り具です。

引用先:東レインターナショナル株式会社(ナイロンスリング アイ形)

ナイロンスリングはベルト状の形をしていて、ちょうど小学生の時に体育で使ったマットの持ち手に質感が似ています。

そんなナイロンスリングですが、ここで1つの疑問が浮かび上がってきます。

どのように使い分ければいいのだろう?

実はワイヤーロープとナイロンスリングにはメリット・デメリットがあり、それぞれの特徴を活かして使用することで、作業性や安全性を向上させることができます。

この記事では、ワイヤーロープとナイロンスリングのそれぞれの特徴やメリット・デメリットを詳しく解説していきますので、現場での使い分けに役立てて頂ければ幸いです。

ひでくん
ひでくん

ナイロンスリングは物流業界でよく使われている印象だね

なべ
なべ

それぞれの特徴を活かして正しく使い分けましょう

ワイヤーロープの特徴について

ワイヤーロープは素線と呼ばれる鋼線を撚り合わせて作る、いわゆる鉄で出来たロープのことを言います。

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ワイヤーロープは玉掛けを行って荷を吊り上げる用途の他に、エレベータなどの昇降装置や牽引装置など、様々な使い方ができるとても汎用性の高い吊り具の1つです。

玉掛け用のワイヤーロープには沢山の種類が有り、対象物の重さや使い方などに応じて様々なニーズに幅広く対応できるのも、ワイヤーロープの大きな特徴となっています。

ひでくん
ひでくん

玉掛け用のワイヤーロープはφ6㎜ぐらいから人間の腕の太さぐらいまで、様々な種類があるよ

ワイヤーロープのメリット

ワイヤーロープには次のようなメリットがあります。

より重いものを吊ることができる

ワイヤーロープは荷重に応じて沢山の太さのバリエーションが有るため、吊り上げる対象物が何百トンという重さだったとしても選択肢があります。

例えばガントリークレーンや橋、タンカーなどの大型船といった超重量物を吊り上げて移動させる時にもワイヤーロープが使用されています。

なべ
なべ

超重量級用のワイヤーロープともなると、圧巻の大きさになりますね

狭いところにも通しやすい

玉掛け用のワイヤーロープはφ6㎜ぐらいの細いワイヤーロープでも垂直で約300kg吊ることができるため、隙間が狭いところでも通しやすいというメリットがあります。

現場工事においては、必ずしも吊り作業がしやすい環境であるとは限りませんので、梁や機器などの狭い隙間でも対応しやすいワイヤーロープはとても重宝します。

ナイロンスリングの場合は最低でも25㎜ほどの幅があるため、ワイヤーロープでないと通せないケースがあります。

耐衝撃性や耐摩耗性に優れる

ワイヤーロープは素材が金属製であることから、耐衝撃性や耐摩耗性に優れているというメリットがあります。また、紫外線などの影響も受けにくく、使用後の手入れを確実に行っていれば、かなり長い期間使用することができます。

特に過酷な環境で作業を行う場合にはワイヤーロープの方が安心感があります。

現場の変化に対応しやすい

ワイヤーロープはシャックルやフックに掛ける「アイ」部分がナイロンスリングよりも細いため、掛け替えを頻繁に行ったり何回も折り返したりする必要がある場合でも、作業がしやすいというメリットがあります。

特に狭い場所に取り付いている機器を交換するような作業においては、吊り方を変えながらハンドリングすることも多いので、変化する現場の状況に合わせやすいワイヤーロープの応用力の高さは非常に重宝します。

ひでくん
ひでくん

ワイヤーロープは何かと応用が利くんだよね

ワイヤーロープのデメリット

一方で、ワイヤーロープには次のようなデメリットがあります。

吊り荷にキズが付きやすい

ワイヤーロープは金属で出来ていることから、吊り荷に直接掛けて吊り上げると、キズが付いたり塗装が剥がれるなど、吊り荷に少なからずダメージを与えてしまう場合があります。

そのため、アイボルトやシャックル等を介して吊り上げるか、ワイヤーロープと吊り荷の間に「やわら(当て物)」を入れて、ワイヤーロープが荷に直接触れないよう処置をする必要があります。

キンクで痛む

引用先:太陽製器工業株式会社(直らない!ワイヤーロープのキンク)

キンクとは上の写真のように、ロープが輪の状態で引っ張られることで曲がり、クセが付いてしまうことを言います。

この状態になってしまうと元に戻らなくなってしまうほか、キンクした箇所の引張強度が極端に落ちてしまうため、吊り具としては使いものにならなくなってしまいます。

キンクしたワイヤーロープは使わないよう直ちに廃棄するようにしてください。

保管や持ち運びに場所をとる

ある程度の太さのワイヤーロープになると、輪っか状に丸めて片付け・保管を行うのが一般的です。

引用先:ロイモール(ニッサ カットワイヤーロープ)

輪っか状にしたワイヤーロープはこの状態より小さくすることができないため、保管や車への積み込みにある程度の場所を確保する必要があります。

はねることがある

ワイヤーロープには元に戻ろうとする弾性力があるため、不意にはねたりして怪我をする恐れがあります。

例えば、輪っか状に丸めてあるワイヤーロープを解く時などですね。

太いワイヤーロープほど、はねた時の勢いが大きくなるので注意が必要です。

ひでくん
ひでくん

はねたワイヤーロープで怪我をした人が過去に何人もいるから、取り扱いには十分注意しよう

手入れを怠ると錆びる場合がある

一般的なワイヤーロープの素材は鉄製が多く、雨などで濡れた状態で放置すると錆びてしまう場合があります。

一度錆びてしまったワイヤーロープは、表面だけでなく内部も錆びてしまっている可能性があるため、安全上の観点から使わずに廃棄するようにしてください。

なべ
なべ

ワイヤーロープは表面が錆びていなくても、内部が錆びてしまっていることがあります

ナイロンスリングの特徴について

引用先:MonotaRO(ナイロンスリング 両端アイ形)

ナイロンスリングは、ポリエステル繊維やナイロン繊維等を織り込んで作られたベルト状の吊り具のことで、「ベルトスリング」や「繊維ベルト」とも呼ばれますが、一般的には「ナイロンスリング」という言い方が多い印象です。

ひでくん
ひでくん

人によっては帯ワイヤーと呼んだりもするね

ナイロンスリングの場合は、ベルトの幅によって吊り上げられる重さが異なり、幅の広さに比例して引張荷重が大きくなります。※より幅広に作られたワイドタイプは例外です

また、ベルト幅以外にも長さや材質の違いによるバリエーションが有り、ワイヤーロープほど多くは有りませんが、一般的なニーズには十分応えられるだけの品数が揃っています。

ナイロンスリングは特に物流業界で用いられていることが多く、お客様に向けて製品を出荷するために使われる吊り具として広く活用されています。

なべ
なべ

工場などで作られた製品はナイロンスリングを使って運搬されることが多いですね

ナイロンスリングのメリット

ナイロンスリングには次のようなメリットがあります。

吊り荷を傷つけにくい

ナイロンスリングはワイヤーロープと違って繊維で出来たベルトであるため、吊り荷に直接掛けても傷がつきにくいのがメリットです。

そのため、「重量物」・「直接しか吊れない」・「だけど傷つけられない」という、ワイヤーロープでは吊るのが面倒な製品の運搬には非常に便利です。

他にも塗装された部材の組み立てなど、傷や塗装剥げを避けたい場合の仕事にも幅広く用いられています。

ひでくん
ひでくん

物流業界で活用されている理由も、このメリットが大きいね

扱いやすい

ナイロンスリングはナイロン素材で出来ているため、金属製のワイヤーロープと比べて柔軟性に富んでおり、取り扱いがしやすいというメリットがあります。

ワイヤーロープは弾性(元に戻ろうとする力)が働いて、丸めようとすると跳ねたりするなど扱いづらい側面が有ります。一方、ナイロンスリングは弾性がほとんど働かないため、持ち上げたり丸めたりしても跳ねたりせず、安全面の観点からも取り扱いが容易です。

吊り荷がずれにくい

ナイロンスリングはワイヤーロープと比べて柔軟性に富んでいることから、荷を吊り上げたときにしっかりと密着します。スリングが密着することで荷との間に摩擦が生まれ、運搬中に滑ってずり落ちにくくなるというメリットがあります。

吊り荷がずり落ちて怪我をするという災害は様々な会社で発生しているので、このメリットは作業性だけでなく安全性の向上にも一役買っています。

なべ
なべ

とは言え、吊り荷の下には絶対に入らないようにしましょう

ナイロンスリングのデメリット

次に、ナイロンスリングのデメリットについてお伝えします。

超重量物は対応できない

ナイロンスリングは繊維素材であるため、吊り上げられる最大荷重のバリエーションはワイヤーロープよりは劣ります。この点については使われている素材上しょうがない部分ではあります。

ナイロンスリングの中には何十トンも吊れるような特殊なものがありますが、一定の重量を超えてくると、やはりワイヤーロープには適いません。

ナイロンスリングの最適な使用範囲は1〜2トンぐらいの吊り荷だと思います。幅と吊り上げる物の重さを考慮して、最適なスリングを選定するようにしましょう。

なべ
なべ

余裕を持った選定を心掛けましょう

紫外線で劣化しやすい

ナイロンスリングは繊維素材であるため、特に屋外で使用していると劣化が早まりやすいというデメリットがあります。

一般的にはナイロンスリングの寿命は屋内使用で7年程度ですが、主に屋外で使用する場合は3年程度とされています。

ナイロンスリングの破断は大きな災害に発展しかねませんので、必ず使用前点検や使用年数の管理を徹底し、少しでも異常が見受けられたら廃棄するようにしてください。

狭いところに通しにくい場合がある

ナイロンスリングは一番小さいものでも幅が25㎜程あるため、狭いところに通そうとしても物理的に通らないケースに遭遇することがあります。

また、ワイヤーロープと比べて弾性が弱い点も通しにくさの一因になっています。(押すとフニャッとなる)

掛けるところがなく、吊り荷の狭い隙間に通す必要がある場合は、細いワイヤーロープの方が通しやすいかと思います。

耐傷性・耐摩耗性に劣る

ナイロンスリングは丈夫なナイロン・ポリエステル素材を使用していますが、やはり金属製のワイヤーロープと比べると、傷や摩耗が発生しやすいというデメリットがあります。

引っ掛けて傷を付けてしまったり、長く使用して摩耗したナイロンスリングを使い続けてしまうと、その箇所に「切れ」が発生して、最終的に破断という事故に発展しかねません。

日頃の使用前点検が非常に大事です。

ひでくん
ひでくん

どんな道具も使用前点検は非常に大切だよ!

ワイヤーロープとナイロンスリングの使い分けについて

それぞれの特徴を踏まえて、ワイヤーロープとナイロンスリングの使い分けについてお伝えします。

重量物の運搬

数トン以上の重量物の吊り上げについては、より高い耐荷重を持っているワイヤーロープを選定する方が良いでしょう。

ナイロンスリングの中には重たいものでも吊れる特殊なものも存在していますが、数十トンを超える重量物や環境が悪い場所での吊り作業においては、やはりワイヤーロープの方が安心感があります。

また、ワイヤーロープは現場の状況に応じた吊り方の工夫がしやすく、応用が利く点でも優位性が高いです。

製品の運搬

工場で生産された製品を運搬する場合は、製品の重量にもよりますがナイロンスリングに軍配が上がります。

ナイロンスリングは柔らかい素材で出来ているため、吊り荷に直接触れても傷を付けにくいという特徴があります。そのためナイロンスリングを選ぶ方がメリットが高いです。

また、ナイロンスリングは幅があって食いこみにくいことから、木枠などに梱包された製品であっても外観を痛めずに運搬ができます。

組み立て作業

クレーン等を使用して行う装置の組み立て作業においては、ナイロンスリングの方が適していると言えるでしょう。

組み立てた装置は最終的にお客様に納品するわけですから、組み立て中に傷を付けてしまったりすると、タッチアップ等の残作業が増えてしまうことになります。

部品の重量が何十トンにもなるような大型装置の組み立てについては、ワイヤーロープを使わざるを得ないかとは思いますが、大抵の組み立て作業においてはナイロンスリングで対応ができるかと思います。

吊り環がある物の運搬

アイボルトなどの吊り環があるものについては、ナイロンスリングよりもワイヤーロープを使用する方が作業しやすいです。

同じ耐荷重でもワイヤーロープの方がナイロンスリングよりも幅が小さい(細い)ため、小さいシャックルを使用しなければならないときなど、ワイヤーロープじゃないと取り付けられない場面がしばしばあります。

ケースバイケースではありますが、未確定要素が多いほどワイヤーロープを選ぶ方が無難だと思います。

重心が安定しない物の運搬

取替工事などの補修作業をやっていると、まれに形がいびつな機器の取り外し作業が発生することがあります。

形がいびつな機器は吊った時のバランスが悪く、重心がどこにあるか見た目からは分かりにくいです。その場合は、チェーンブロックやレバーホイストでオーライをとりながら、吊り荷を安定させていきます。

このようなケースではワイヤーロープの方が適しています。

吊り荷のオーライをとる場合、1つのシャックルや吊り具のフックに複数本ワイヤーロープを掛けることになりますので、「アイ」部分が細いワイヤーロープの方が使いやすいでしょう。

ただし、吊り荷に胴巻きして引っ張ったりする用途には、滑りにくいナイロンスリングが良い場面もありますので、状況に応じて使い分けることが重要です。

デリケートなものの運搬

木材やガラス、冷蔵庫・ピアノ・タンスなどの家電・家財製品、また精密に機械加工された部品など、一定の重量がありつつも運搬に気を遣うデリケートなものについては、ナイロンスリングが適しています。

ナイロンスリングは幅のあるベルト状になっているため、吊り荷との接触面積が広く荷重が分散されます。また素材自体も柔らかいため、吊ったものの表面に圧痕などのダメージが残りにくいというメリットがあります。

ナイロンスリングには、吊り荷へのダメージ軽減に特化した幅広タイプ(ワイドタイプ)もラインナップされていますので、チェックしてみてください。

吊り代があまりない環境での吊り作業

天井に近いところや直ぐ上に梁などの構造物があるところなど、吊り代があまりない環境での吊り作業はワイヤーロープの方が使いやすいです。

吊り代があまりない場所では、ワイヤーロープを何回も折り返して短くすることがありますが、ナイロンスリングではそのような使い方ができません。

ナイロンスリングを何回も折り返すと、シャックルやフックに入らなくなり掛けることができなくなってしまうからです。

場面に応じた臨機応変な使い方に対応しやすいワイヤーロープの方が、このようなケースにおいては優位性があります。

まとめ

以上、ワイヤーロープのナイロンスリングの違いについて、特徴やメリット・デメリットを踏まえながらお伝えしました。

それぞれのメリット・デメリットをまとめると次の通りです。

ワイヤーロープ

<メリット>

  • より重いものを吊り上げることができる
  • 狭いところに通しやすい
  • 耐衝撃性や耐摩耗性に優れる
  • 現場の変化に対応しやすい

<デメリット>

  • 吊り荷に傷がつきやすい
  • キンクで痛む
  • 保管や持ち運びに場所をとる
  • はねることがある
  • 手入れを怠ると錆びる
ナイロンスリング

<メリット>

  • 吊り荷を傷つけにくい
  • 扱いやすい
  • 吊り荷がずれにくい

<デメリット>

  • 超重量物は対応できない
  • 紫外線で劣化しやすい
  • 狭いところに通しにくい場合がある
  • 耐傷性・耐摩耗性に劣る

ワイヤーロープとナイロンスリングを場面に応じて使い分けることで、作業性や安全性が向上するだけでなく、仕事や製品の品質維持にもつながります。

ここで挙げたそれぞれのメリット・デメリットを参考にして頂き、今後の仕事に是非お役立てください。

ABOUT ME
なべ
なべ
エンジニア
設備保全一筋20年の保全マン。
専門は電気であるが、機械関係の仕事にも携わっている。
現在は営業・設計・製作・工事までを1人でこなすハードな毎日を送っている。
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