【マイナス20℃の世界】冷凍庫の中で仕事するとこんな感じです。

今日は突然ですが、マイナス20℃の世界についてお話させて頂こうかと思います。
マイナス20℃の世界とは言っても、南極とかロシアとかでは無くて冷凍庫の中の話です。
僕は、とある食品工場で仕事をする機会が年に数回有り、その工場の中には巨大な冷凍庫が存在します。その冷凍庫の中にある自動機械の修理仕事をしたりするのですが、冷凍庫の中は常にマイナス20℃〜25°に保たれています。
マグロを冷凍して加工している工場にある冷凍庫などは、実にマイナス60℃にも達する超極寒の世界なので、マイナス20℃〜25℃はそれに比べるとまだ暖かい方ですが、常温の世界とはかなり作業環境が異なります。
この記事ではそんな冷凍庫の中での仕事について、体験談を交えてお伝えします。

環境が異なると仕事のやり方も違ってきます
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どんな格好で仕事するの?

ご想像通り寒いです(笑)。ですので普通の服ではとてもでは有りませんが中にいることは出来ません。
冷凍庫内作業用の防寒着が市販されていますので、基本的にはそれを着用して作業します。
サンエスの冷凍倉庫用防寒着です。
昔はエスキモーのようなモコモコの防寒着でしたが、このサンエスの防寒着は比較的薄手で動きやすいわりに、しっかりと防寒してくれるのでとても重宝しています。このサンエスの防寒着はマグロの加工工場でも対応可能なマイナス60℃仕様の防寒着です。ですので、体は全く寒さを感じません。
靴についてもやはり冷凍庫内作業用の靴になります。
物が足の上に落ちてきてもつま先をケガしないよう、固いものでつま先がガードされている安全長靴です。普通の安全靴は固い金属でつま先がガードされているのですが、冷凍庫の中では金属は氷以上に冷たくなるので、冷凍庫用は先端のガードが樹脂製のものになります。
このシバタ工業の長靴はマイナス40℃まで耐えられる設計ですが、段々つま先が冷たくなってきます。ですので、足下については靴下を二重に履く・スキー用のカバーソックスを履く・足用カイロを入れる等で対策します。
手については、汚れるのであまり良い製品を使いたくないので、軍手を二重にして対応します。軍手の二重履きである程度は耐えられますが、指先はかなり冷たくなってきます。あまり長く冷凍庫にいると本当に凍傷になるんじゃないかというぐらいに冷たくなってきますので、耐えられなくなる前に外に出て休憩するという具合ですね。この指先が冷たくなるのが一番辛いです。
ただ、冷凍庫から出て休憩したあとに再度入ると、体や手がポカポカしだしてさっきの冷たさが嘘のようにマシになります。
人間の環境適応能力とは本当に凄いものですね。
顔についてはスキー用のフェイスマスクをしている人もいますが、僕は何も着けなくてもマイナス25℃ぐらいなら耐えられます。面の皮が厚いからかもしれませんが。
マイナス25℃の冷凍庫の中ってどんな環境?

中は基本的に湿気が有りません、そして色んな物が固くなります。
例えばゴム製品。液体窒素の中に入れたゴム製のボールを床の上に落とすと、ガラスのように割れる様をテレビ等で見たことがありますでしょうか?
マイナス25℃の中でも似たような感じになります。以前、ゴムのキャップの付いた工具を誤って床に落としたことがあったのですが、ゴムの部分がガラスのように砕けてしまいました。常温の環境下では起こりえないことです。
また、プラスチック製品でも似たような状況になります。何種類ものドライバーが1本にまとまっている「システムドライバー」という便利工具を持っていたのですが、それも誤って床に落とした瞬間ドライバーのプラスチック部が割れて、中身がバラバラになりました。
他にも、機械に配線されている電線も固くなります。冷凍庫内でも固くならない特殊なものも有りますが、普通の電線を冷凍庫内に入れると曲がらなくなります。特に細い線をグッと曲げようとすると、ベビースターラーメンのようにポキッと折れます。
あと機械に使う油類も形状が変わります。機械の動きを良くする為に、グリースと呼ばれる固形の油(バターやマーガリンみたいな感じ)を塗るのですが、これも固くなります。まるでハーゲンダッツのアイスのように。
ですので、間違って普通のグリースを塗ったり入れたりしてしまうと、固まって機械が動かなくなったりします。グリースについてもマイナス25℃でも固くならない特殊なものが有りますので、それを機械に使います。
協同油脂の「マルテンプSRL」です。このマルテンプSRLは−50℃〜150℃まで使えるグリースなので、冷凍庫内の機械装置には不可欠です。デメリットはかなり高価なグリースというところですね。
あと、ビニールテープなどのテープ類も、外に出してしばらくおいてしまうと全くくっつかなくなります。ですので、中でテープ類を使う場合はポケットや胸元に忍ばせておき、使う直前に出して急いで巻いたり貼り付けたりします。不思議なもので、一旦くっついてしまえば、固くなっても剥がれることはないです。
このように、マイナス25℃の環境下では様々な物の「粘り」が無くなります。
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文字って書けるの?

ボールペンやマジックの類いは基本的に全く書けなくなりますが、シャープペンシルや鉛筆であれば普通に紙に書くことが可能です。ですので、中で記録やメモを取る場合はシャープペンシルを使います。床に印を書いたりする場合はチョークや石筆が使えます。いわゆる「すり減る系」ですね。
電気機器は使えるの?

携帯電話やデジカメなど、壊れることを覚悟すれば「使えなくはない」です。デジカメで写真を撮影することも多々有りますが、ポケットや胸元に忍ばせておいて使う直前に出すということをやれば、写真撮影は可能です。
ただ、ずっとカメラを外に出しておいて、いきなり動かなくなったことがあります。「壊れたー!」と焦りましたが、ポケットの中で暖めたら動くようになったので、二度と出しっぱなしにしないと心に誓ったことを覚えています。
携帯電話については、ガラケーで中で通話していた人がいましたので一応使えると思われますが、スマホを冷凍庫の中で使う勇気が僕には無かったので、使えるのかどうかは不明です。
あと、バッテリーはびっくりするぐらい速く無くなります。冷凍庫の中が暗いので、ハンディのLEDライトを持ち込むのですが、新品の電池を入れておかないと直ぐ暗くなります。予備電池の準備は必須ですね。
中で使った道具を外に出すとどうなるの?

真っ白になります。中で氷のように冷たくなった道具を常温のところへ持っていくと、空気中の水分が道具の表面で凍り、霜がついて真っ白になります。しばらくおいておくと霜が溶けてビショビショになります。
ですので、中に持ち込んだ工具を外に出した後は、しっかり手入れをしておかないと水分で錆び錆びになりますので結構後片付けが大変です。
あと、気を付けなければいけないのが電気機器類です。電気機器も例外なく中で冷え冷えになっていますので、外に出した瞬間容赦なく湿気が襲ってきます。できるだけ持ち込まないように心がけていますが、持ち込んでしまったものはポケットや胸元に入れておき、徐々に暖めてから外に出します。やはり電気機器類が一番気をつかいますね。
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バナナで釘が打てるの?

たまに聞かれるのがこの質問(笑)。僕は年に数回しか冷凍庫で仕事しないので試したことは有りませんが、職人さんで実際に試した人が居ます。
答えは「イエス」だそうです。ただし、マイナス25℃の環境下では直ぐに打てるようにはならないみたいです。中にバナナを入れてもしばらくはグニョグニョしているとのことで、丸1日以上は置いておかないと釘を打てる程固くはならないというのが実際に試した人の結論です。
マイナス60℃のマグロの加工工場であれば、直ぐに釘を打てる程固くなるかもしれませんね。
トンカチが必要な時はこう言いましょう。「お〜い!バナナ持ってこーい!」
まとめ

以上、マイナス25℃の世界を僕の経験からお話させて頂きました。
氷点下の世界は、常温の世界では思いもよらなかった様々な現象が発生します。
このような環境下で働いておられる方々は本当に凄いと思います。僕なんかはたまにしか冷凍庫の中で仕事をしませんので、夜は疲れてグッタリしてしまいます。
寒さは人の体力を予想以上に奪っていきますので、氷点下での仕事や生活をされている方々におかれましては、どうか無理をなさらないようお気を付け下さい。