【違いは何?】各種ジャッキの仕組みや特徴について解説
重たいものを持ち上げる時に使用する「ジャッキ」。
ジャッキには油圧方式やスクリュー方式など、重量物を持ち上げるための仕組み・構造によって様々な種類があります。
それぞれの方式にはメリット・デメリットが有り、それらの特徴に応じた使い方をする必要があります。
現場であれこれ悩んでしまうことも多いのではないでしょうか。
今回は各種のジャッキの仕組みや特徴について解説していきます。
ジャッキはとても便利な道具ですが、使い方を誤ると大きな事故に発展する可能性があります。状況に応じて使い分けてください。
ジャッキにはどんな種類がある?
ジャッキには大きく分けて次の2種類があります。
油圧ジャッキ
油圧ジャッキとは、ポンプによって油にかけた圧力を利用して重量物を持ち上げる仕組みのジャッキです。
引用先:株式会社 今野製作所(油圧ジャッキの構造)
上の図が油圧ジャッキの構造の一例です。
ジャッキのレバーハンドルを手で上げると、ポンプにあるプランジャーピストンが引き上げられてタンク(シリンダーの外側)内の油が吸込チェック弁からポンプの中に入ってきます。
レバーハンドルを下げると、今度はプランジャーピストンが下がってポンプ内の油を吐出チェック弁から吐出します。
吐出した油の圧力によって、シリンダー内のラムがどんどん上昇していき、このラムによって重量物が持ち上がっていきます。
ラムを下げる時は、リリーズスクリューを回すとラムの下の油がタンクに戻っていくので、油の圧力が無くなって下げることができるようになります。
これが油圧ジャッキの基本構造です。
油圧ジャッキにはシリンダー・タンク・ポンプが一体になっているもの
引用先:株式会社 今野製作所(ダルマジャッキ)
それから、シリンダーとタンク・ポンプが分離しているもの
引用先:株式会社 今野製作所(分離タイプジャッキ)
主にこれらの種類があります。
メカニカルジャッキ
メカニカルジャッキは油圧を使わずに機械的な仕組みによって重量物を持ち上げるジャッキです。一般的にはスクリューを使ってラムを持ち上げる構造のものが多いです。
引用先:コトバンク(ジャッキ)
メカニカルジャッキは上図のように傘歯車とねじ棒(スクリュー)にを備えていて、外部から傘歯車を回すとねじ棒が回転して受け台(ラム)が上昇するという仕組みです。
傘歯車を回す部分はラチェット構造になっていたり、大きいモノだとウォームギア構造になっているものもあります。
工事現場や工場でよく使われるのは、操作部分がラチェットになっているジャーナルジャッキではないでしょうか。僕の職場でもよく用いられているジャッキです。
引用先:ムーバーズボックス(ジャーナルジャッキ)
一般家庭で車のタイヤを交換するときに使うパンタグラフジャッキも、スクリュー式ジャッキの仲間ですね。
引用先:KTC(パンタグラフジャッキ)
油圧ジャッキの特徴
油圧方式のジャッキには次のような特徴があります。
メリット
サイズのラインナップが豊富
油圧ジャッキは小さなサイズでも大きな力を得られるという特徴があり、メカニカルジャッキよりもサイズのラインナップが非常に多いです。
そのため、最大の揚力(持ち上げられる力)が同等であっても、よりコンパクトなサイズのものを選べますし、最低限これだけの揚力があれば良いというニーズにもピッタリとはまります。
引用先:となりのカインズさん
サイズが小さいと狭いところでも設置しやすいですし、軽いので持ち運びが楽になります。
より大きな過重のものを選択できる
油圧ジャッキはメカニカルジャッキよりも大きな揚力のものを選択できます。
メカニカルジャッキは現場で使えるものとして、揚力100tのジャーナルジャッキが僕の知る限り日本最大揚力のジャッキです。
引用先:ASKUL(大阪ジャッキ製作所 ジャーナルジャッキ JJ-10011)
油圧ジャッキの場合は、揚力100tのラインナップはもちろんのこと、最大揚力1,000tといった化け物のような油圧ジャッキも存在します。
引用先:ASKUL(大阪ジャッキ製作所 ET形パワージャッキ ET1000H100)
あまりに大きな揚力のジャッキだと重さもそれなりにあります(ET100H100:3,400kg)が、現場でどうしても必要な場面があれば、選択肢があるのもメリットの1つですね。
利便性の高い分離タイプが選べる
シリンダー部分とタンク・ポンプが分離できるタイプが選べるのも、油圧ジャッキのメリットだと思います。
ジャッキ部分を付け替えることで様々な場面に対応できるので、現場での利便性は非常に高いです。
また、ジャッキをセットした後に離れた位置でジャッキアップ作業ができることも、作業の安全性向上に繋がります。
電動ポンプが使える
大きな重量物をジャッキアップする場合は操作にある程度の力を要しますので、作業者自身に負荷が掛かります。
また、ストロークの長いジャッキは何回もレバーハンドルを上げ下げしなければならないので、体力を消費しますし時間も掛かります。
分離型の油圧ジャッキには手動ポンプの他に専用の電動ポンプを接続することができます。
引用先:株式会社 今野製作所(油圧ポンプ)
これによって作業者の負荷が軽減できますし、ストロークが長い油圧ジャッキでも短時間で作業することが可能になります。
デメリット
油漏れリスクがある
油圧ジャッキは油を使う関係上、パッキンが古くなってくると油漏れが発生しやすくなるというリスクがあります。
油圧抜けによる自然降下がある
油圧ジャッキは重量物を持ち上げている間、重量物からの重さによって常に押されている状態になっています。もし、パッキンが劣化していたり油の通り道にヒビが入っていたりすると、押された油が漏れてしまい油の圧力が段々抜けてきてしまいます。
油の圧力が抜けてくると、重量物の重さにシリンダーが負けてしまい段々下がってきます。これが油圧抜けによる自然降下という現象です。
なので、油圧ジャッキだけでジャッキアップ状態をキープしておくのは大変危険です。
ジャッキアップをして下で作業を行う場合は、ジャッキスタンドに代表される固定台を必ず下に置くようにしてください。
使う向きによって使用条件が異なる
油圧ジャッキは上に向けて使うことを想定して作られていますが、重量物を持ち上げるという用途だけではなく、横向きに力を加えるという用途にも使うことは機種によっては可能です。
例えば、錆付いて固着している軸を車輪から抜き取ったりするような場合ですね。
ただし、シリンダー・タンク・ポンプ一体型は横向きにするとラムの伸びる長さが変わってきます。
引用先:株式会社 今野製作所(ダルマーの横押し)
これは、ジャッキを向ける角度によって油を吸ったり吐いたりできる量が変わる為です。
上記は今野製作所製の「DHARMA(ダルマー)」というシリーズの場合ですが、この傾向はメーカーによって異なるので、一体型を横向きで使用する場合は取扱説明書等で事前に確認する必要があります。
なので、一体型を横向きに使用することはあまりおすすめできません。
また、本体を下に向けて使用することは構造上できません。
上向き以外で使用したい場合は、どの方向でも使用可能な分離型を選びましょう。
メンテナンスがやや面倒
油圧ジャッキは使用する油圧用の油やパッキンなど、メンテナンスに気を使う部分が多いのもデメリットの1つです。
特に油圧用の油は劣化しますので、性能維持のためには1〜2年の定期交換が不可欠です。
メカニカルジャッキの特徴
メリット
細かなレベル調整が行える
メカニカルジャッキはギアやスクリューでラムを駆動させるので、精密なジャッキアップ・ジャッキダウンが可能です。
なので、建築現場での重量物のレベルを調整したり、工場であれば鉄鋼製缶品などの水平を出したりと、とても細かな調整をスムーズに行うことができます。
油圧ジャッキの場合は単動式だと精密なジャッキダウンができませんし、複動式にするにも以外と手間が掛かります。
メカニカル方式のジャーナルジャッキなどは、ジャッキアップとジャッキダウンが操作部の切り替えだけで簡単に行えるので、非常に使い勝手が良いです。
自然に下がってこない
メカニカルジャッキは機械的な構造で位置が保持されているので、油圧式の油圧抜けといった自然降下現象は発生しません。
なので、ジャッキアップした状態で何日間もその状態をキープし続けなくてはならない場合でも、安全して使うことができます。
レベル調整のしやすさと相まって、建築業や製造業でよく使われている所以がここですね。
横向き使用でも能力制限がない
メカニカルジャッキは油圧ジャッキのように流体を使用しないので、重力による影響を全く受けません。なので、横向きの場合でも能力制限無しで使うことができます。
ただし、下向きでの使用はバランスがかなり悪くなるため、大阪ジャッキ製作所はジャーナルジャッキを下向きで使用しないようアナウンスしています。
安全上の観点から、メカニカルジャッキは上向きもしくは横向きで使用してください。
メンテナンスフリーで頑丈なつくり
メカニカルジャッキは消耗品を使用していなので、油圧ジャッキのような油圧用の油やパッキンなどの管理に気を使うことがありません。
また、耐久性を考えてかなり頑丈につくられているため、非常に長い期間使うことができます。
ただし、どんな道具でもそうですが使用後の清掃や手入れは不可欠ですし、放り投げるなどの乱暴な扱いは厳禁です。
デメリット
サイズが大きい
ジャーナルジャッキなどのメカニカル式は、一番小さな揚力のものでもある程度の大きさがあります。
なので、狭いところで使いたいという場面では選択肢がないことも多いです。
狭い箇所で数トンの揚力でジャッキアップしたい場合は、やはり油圧ジャッキの方に軍配が上がります。
手や工具で直接スクリューを回す小さいタイプもありますが、これで数トンをジャッキアップするのはかなりしんどいです。
引用先:MonotaRO(ミニジャッキ SK11)
引用先:MonotaRO(スクリューサポート)
駆動部分にゴミが噛み込むと動きが悪くなる
メカニカルジャッキは可動部分にゴミが入りやすいため、ギヤやスクリュー部分に噛み込むと動きが極端に悪くなります。その場合は、できる範囲で分解して清掃する必要があります。
屋内ではそれほど気を使う必要はありませんが、砂埃などが舞う屋外での使用には注意してください。分解した後に清掃して組み立てる場合は給油も忘れずに行ってください。
操作に力が必要
メカニカルジャッキは機械的な仕組みで大きな力を得る構造であるため、油圧ジャッキよりも操作に力が必要になります。
揚力が100tクラスのジャーナルジャッキは、操作部分にウォームギヤを採用するなど出来る限り作業者に負担が掛からないような造りにはなっています。
引用先:karakurist(ウォームギア)
とはいえ、油圧ジャッキの場合は電動ポンプを繋いで操作することができるので、作業者の負担はメカニカルジャッキの方が大きいと思います。
状況に応じて安全に使おう
以上、油圧ジャッキとメカニカルジャッキの仕組みや特徴について解説しました。
ジャッキは小さな体で大きな力を出せるとても便利な道具ですが、大きな力が常に加わっている分、一歩間違えると大きな事故に発展する可能性があります。
特に不安定な場所やジャッキの先端に介在物を入れてジャッキアップする場合など、倒れたり介在物が飛んだりしないように十分な対策をしなければなりません。
実際、僕の会社の中でジャッキアップ中に介在物が飛んで体に直撃し、命を落とされた方もいらっしゃいます。
油圧ジャッキはメンテナンスをしっかりしていればまだ良いですが、置いておくと段々下がってくるようなジャッキも多々見受けられます。
是非、それぞれのジャッキのメリット・デメリットを理解していただき、状況に応じた安全な使い方を心掛けるようにしてください。
安全第一です。