【近接センサって何?】動作原理とその使い方について解説
近接センサを皆さんご存じでしょうか?
産業用センサには光電センサや超音波センサなど様々な種類のものが使われていますが、この近接センサも色んな装置で使われています。
この記事では、そんな近接センサについて動作原理やその特徴、使い方などについて解説していきます。
近接センサはその特徴から様々な用途に活用することができます。
近接センサとは?
近接センサとは、センサの検出範囲に物体が接近したことを検知し信号を出力するセンサです。
一般的には鉄などの金属を検出する近接センサがよく使われますが、液体やプラスチックや木材などを検出できる近接センサも存在します。
リミットスイッチとは違い、検出物に直接触れなくても検出できるいわゆる非接触式のセンサになります。
近接センサの外観
引用先:センサテック株式会社(形MDP-C2R5 円柱形近接センサ)
引用先:センサテック株式会社(形MDS-Q5 近接センサ)
近接センサでよく使われる形のものとしては、写真のような円柱形のものと角形ものが多いです。他にも溝形といったコの字形をしたものもあったりします。
円柱形のものであれば先端に、角形のものであれば丸い的のようなマークに検出物を近づけていくと、センサが検出して信号を出力します。
近接センサの動作原理
近接センサは動作原理の違いにより大きく3種類に分けられます。
- 誘導形(高周波発振形)近接センサ
- 静電容量形近接センサ
- 磁気形近接センサ
誘導形(高周波発振形)近接センサ
引用先:株式会社イワキ(用語編【近接スイッチ】)
誘導形(高周波発振形)近接センサは、本体から高周波磁界を発振させて、検出物体の有る無しを判断しています。
本体には検出コイルが内蔵されていて、このコイルに交流電流を流して高周波磁界を発振させます。この磁界の中に検出物体(金属などの導電体)を近づけると、電磁誘導により渦状の電流が検出物体に発生します。この電流を渦電流と言います。
ちょうどIHクッキングヒーターと同じ原理ですね。
渦電流が検出物体に発生すると、検出物体内部の抵抗によって熱による損失が生じ、検出コイルの発振状態に変化が生じます。(発振が少なくなるか消失する)
この発振状態の変化をセンサの内部回路で検出し、「検出物体が有る」と判断します。
このように電磁誘導の原理を利用した近接センサを「誘導形(高周波発振形)近接センサ」と呼びます。
この方式は多くのメーカーが採用していて、単に近接センサと言えばこの誘導形(高周波発振形)を指す場合が多いです。
検出方法の原理上、検出できるものは鉄などの金属に限られます。
静電容量形近接センサ
引用先:ハヤシレピック株式会社(静電容量型近接センサーとは)
静電容量形近接センサは、センサと対象物の間で発生する静電容量の変化を検出して検出物体の有る無しを判断しています。
静電容量形の場合は検出コイルではなく検出用電極を備えていて、この電極にはプラスの電荷が生じています。
この検出用電極に検出物体が接近すると、検出物体のマイナスの電荷が検出用電極に引き寄せられ、検出物体のプラスの電荷は電極と離れた方向に発生します。
これを静電誘導と呼び、この現象を表した図が以下になります。
引用先:Electrical Information(静電誘導とは)
図で言う帯電体が近接センサ、導体が検出物体です。
この状態になると検出用電極のプラスの電荷も増加し、それに比例して検出用電極の静電容量も増加します。
静電容量が増加すると発振回路の発振状態に変化が生じる為、その変化を内部回路で検出して「検出物体が有る」と判断します。
このように、静電容量の変化をキーとしている近接センサを「静電容量形近接センサ」と呼びます。
静電容量形近接センサは金属だけでなく水や油などの液体、プラスチック、ガラス、粉体なども検出することが可能です。
磁気形近接センサ
磁気形近接センサは、検出物体に磁石を使用する近接センサです。
磁気形近接センサには、磁力で物理的に接点を引き寄せて動作させるタイプと、磁界の発生を検出して動作するタイプの2種類あります。
磁力によって接点を引き寄せるタイプ(リードスイッチ形)
このタイプはリードスイッチという磁力で接点が開閉する機構を内蔵しています。
引用先:株式会社ベスタクト・ソリューションズ【近接スイッチ(センサー)について】
センサに内蔵されているリードスイッチは、永久磁石を近づけると磁力に反応してスイッチの接点が閉じることでONの状態になります。磁石を遠ざけると磁力が弱まるので、接点が開いてOFFの状態に戻ります。
とてもシンプルな構造ゆえに安価で、ドアの開閉検知などによく使われています。
磁石による磁界の発生を検知するタイプ(ホール素子形)
もう一方の磁気形近接センサは「ホール素子」という半導体部品を使って、磁界の発生を検知するセンサです。
引用先:TDK(ホールセンサと「磁気センシング技術」)
ホール素子はホール効果と呼ばれる現象を利用したセンサの一種です。
ホール効果とは磁界が発生している中で金属などの導体に電流を流すと、電流と磁界の両方に垂直な向きで電圧(ホール電圧)が発生する現象のことを言います。
この現象はフレミングの左手の法則を使うと説明ができます。
引用先:株式会社ダイドー電子(磁石用語「フレミングの左手の法則」)
フレミングの左手の法則とは、図のような手の形にしたときに親指がF(電磁力)、人差し指がB(磁界)、中指がI(電流)というそれぞれの要素の向きが分かるという法則です。
磁界の中で導体に中指の方向に電流が流れると、親指の方向に電磁力が発生します。つまり、この電磁力によって磁界中の電子を引き寄せようとする力(ローレンツ力)が働くので、親指の方向がマイナスで反対側がプラスという図のような電圧(ホール電圧)が発生するという流れになります。
よって、磁石をセンサに近づけて磁界を発生させると、ホール効果によってホール素子に電圧が発生するので、その電圧を検出することで磁石の有無が判断できるというわけです。
これがホール素子を使った磁気形近接センサの仕組みとなります。
近接センサのメリット
光電センサやリミットスイッチと比較して近接スイッチ全般に言えるメリットです。
非接触で検出できる
光電センサでも同様のことが言えるのですが、検出物体に直接触れずに検出ができるので、機械的な可動や接触による摩耗がありません。
また、検出物体に対しても接触によるダメージを与えることがないので、繰り返し同じ検出物体を検出する用途、例えばドアやシャッターの検出などにも有効的です。
非常に長寿命
光電センサは光を出すための素子の劣化、リミットスイッチでは可動部や内部のスイッチの劣化などが寿命に影響を与えますが、近接センサの場合は劣化する部品が少ない為、長期間安定的に使用することが可能です。
実際、僕が近接センサが壊れて交換したという経験は、ぶつけて破損させてしまったり線が断線したという場合を除き一度も有りませんでした。
悪環境に強い
光電センサは光を出すレンズに汚れやグリースなどの塊が付着してしまうと、それが邪魔をして誤動作することがあります。また、リミットスイッチでは可動部にゴミが噛み込んで動きが悪くなったりします。
近接センサは油やホコリが多い製鉄所のような環境でも問題なく安定的に検出ができます。近接センサ自身が汚れていても大丈夫ですし、検出物体が汚れていてもちゃんと機能します。
なので、製鉄所の熱延ラインや焼結工場といった、とても環境の悪いところの設備に最適なセンサだと言えるでしょう。
検出対象を限定できる
光電センサは光を遮ったり反射するものであれば何でも、リミットスイッチはアクチュエータを動かすものであれば何でも、それぞれ動作させてしまうことが可能です。
近接センサは金属や磁石など検出対象物体が限定されているので、これを上手に利用して機械の制御を行うことができます。
詳細については「近接センサの使い方」を参照ください。
ただし、静電容量形近接センサについては様々な物質を検出できるので、周囲の環境や検出物の大きさ、材質などを考慮して選定する必要があります。
近接センサのデメリット
近接センサにも少なからずデメリットがありますので、それについて解説します。
検出距離が短い
近接センサはその動作原理から、検出対象物にかなり接近しないと検出することができません。検出距離が短い機種で数ミリ程度、長距離と呼ばれる機種でも30ミリ〜40ミリまでぐらいしか検出距離が有りません。
なので、この点を考慮して装置の設計を行う必要があります。
検出距離と本体の大きさが比例する
近接センサは検出できる距離に比例して本体が大きくなります。
例えば円柱形の近接センサであれば、径が10ミリぐらいのものだと検出距離も10ミリ以下、検出距離が30ミリ程必要な場合は径が30ミリぐらいのものを選定しなくてはいけません。よって、必然的に本体が大きくなります。
引用先:MonotaRO(円柱形近接センサ直流2線式PRTシリーズ)
引用先:MonotaRO【円柱形誘導近接センサ PRシリーズ(直流2線式)】
アンプ分離形を選択することでセンサ本体の長さを短くすることはできますが、径はどうしても小さくすることが出来ないのが現状です。
調整に気を使う
近接センサは検出対象物にかなり接近させないといけない為、検出範囲内かつ当たらないような絶妙な位置で調整する必要があります。
近接センサの本体は樹脂製の部分が多く含まれていますし、検出対象が基本的に金属だったりするので、検出対象物にぶつかると破損してしまいます。
実際、近接センサの故障の大半が検出対象にぶつかっての破損です。(ケーブル断線もありますが)
近接センサの設置や交換を行ったあとは、本体にぶつかったり検出範囲から外れてしまわないかを慎重に確認してください。
周囲の物体やセンサ同士で影響を受ける
近接センサは検出対象物以外の周囲にある金属の影響、もしくはセンサ同士を接近させての相互干渉による影響をそれぞれ受けることがあります。
検出対象物がないのにONしてしまった、みたいな感じですね。
そのため、特に新たに近接センサを設置するときなどは、このような外的影響がないかをよく確認する必要があります。
近接センサのラインナップに、検出ヘッドの周囲を金属で覆った「シールドタイプ」がありますが、同径の近接センサよりも検出距離が短くなるので注意しましょう。
磁化された金属で誤動作するときがある
磁気形近接センサは検出対象が磁石に限定されていますが、何らかの理由で磁化されてしまった金属に反応して誤動作することがあります。
近接センサの使い方
近接センサの使い方について具体例を挙げてみます。
誘導形近接センサ
鉄製パレットの位置決め
コンベアで流れてくる鉄製パレットの位置決め用途です。
光電センサを使用しても良いのですが、鉄製パレット以外を検出したくない場合は誘導形近接センサの方が有効的です。
機械装置の位置決め
工作機械などの位置決め制御用途です。
狭い機械装置の中に検出器を設置して位置決め制御をしたい場合、スペースの問題でリミットスイッチは取り付けしにくい場合があります。また、光電センサは位置決めに適したコの字形のものがありますが、油や切り粉などで汚れやすい工作機械などでは誤動作する可能性もあります。
近接センサは比較的狭い場所でも取り付けやすく、油や汚れで誤動作することがあまりないので、工作機械などの位置決めに最適だと言えるでしょう。
金属製扉の開閉検知
装置への侵入の為の鉄製扉や門のゲートなど、金属で出来ている扉の開閉検知には誘導形近接センサが有効な場面が多いです。
リミットスイッチや光電センサ(拡散反射形)でも検出はできますが、扉以外の物体を検出してしまう恐れがあります。
誘導形近接センサは検出対象が金属に限定されるので、比較的安全に扉の開閉検知ができます。
静電容量形近接センサ
タンクの液面検出
静電容量形近接センサは液体を検出することができるため、タンクの上面と下面にそれぞれ取り付けておけば、タンク内の液体の量を近接センサで検出することができます。
タンクの材質を非金属にすることで、タンクの外側に近接センサを取り付けることが可能です。
タンク内の粉体検出
液面検出と同じく、非金属製タンクの外側にこの近接センサを取り付けておくことで、タンク内の粉体が無くなったことを検出して外部に知らせることが出来ます。
ガラスの検出
ガラスのような透明な物体を検出する場合、使用するセンサはかなり限られます。普通の光電センサでは光が透過して上手く検出できませんし、リミットスイッチのような接触形のセンサを使うと破損させてしまう恐れがあります。
静電容量形近接センサはガラスを検出することが可能なので、例えばガラス基板の搬送ラインなどで製品検出をするためなどに活用ができます。
磁気形近接センサ(リードスイッチ形)
事務所ドアの閉検出
リードスイッチを利用した磁気形近接センサでよく使われるのが、会社の事務所のドアが閉まっているかを検出する用途です。
会社のセキュリティを作動させる為には、全てのドアが閉まっていなければなりません。このドアの閉検出にリードスイッチ形近接センサが使われていることが多いです。
固定側に近接センサ本体、ドア側に本体とセットで売られている磁石を取り付けて、ドアが閉まった時に磁石とセンサが接近して「閉」を検出するといった具合です。
シリンダーの位置検出
エアーシリンダーや油圧シリンダーのロッド位置検出にリードスイッチ形近接センサが使われています。
シリンダーのピストン部には磁石が仕込まれていて、この磁石の位置をリードスイッチ形近接センサが検出することで、シリンダーロッドの位置(伸縮長さ)が分かります。
引用先:空気圧機器の匠(エアシリンダー用オートスイッチとは?使い方や仕組み・原理について解説)
シリンダーで使われる近接センサは「オートスイッチ」や単に「リードスイッチ」とも呼ばれます。
磁気形近接センサ(ホール素子形)
鉄板に貼り付けた磁気テープの検出
磁気形近接センサは磁石のみを検出する為、鉄板に磁気テープを貼り付けても磁気テープのところだけを検出することができます。
また、ホール素子形近接センサはS極を検出タイプとN極を検出するタイプの2種類があり、これらを使い分けることで様々なシーンに応用が可能です。
例えば、搬送台車に取り付けた近接センサがS極の磁気テープを検出している時は低速走行、N極の磁気テープも検出したら停止、みたいな感じです。
コンクリートに埋めた磁石の検出
コンクリートに磁石を埋めたとしても、磁石からの磁界が届く範囲であれば近接センサで検出することが可能です。
主な用途としては、コンクリート上を走行する無人搬送車の制御などですね。
無人搬送車はコンクリートに埋められた磁気テープをセンサで検出しながら走行するものが多く、走行路の軌道や現在位置などの情報をこの近接センサを通して得ています。
このような用途において大活躍するのが磁気形近接センサです。
まとめ
以上、近接センサの動作原理やその特徴、使い方などについて解説しました。
一口に近接センサといっても様々な種類や特徴があり、使いこなすのがなかなか難しい機器かもしれません。
ただ、光電センサやリミットスイッチにはない優れた特徴を有しており、近接センサでないと実現ができないようなアプリケーションも多数存在します。
是非それぞれの近接センサについての特徴を理解し、メリット・デメリットを踏まえたうえで上手く活用してみてください。
皆さんの悩み解決の一助になれば幸いです。