三菱製ギヤードモータ「GM-LJB」のブレーキ点検方法について解説

産業機械の駆動用途として、かつて幅広い用途で使用されていた三菱電機製ギヤードモータ「GM-LJ」シリーズ。
7.5kW以下のモータは20年以上前に生産中止となり、11kW以上のものはその後も継続生産されていましたが、2022年3月で廃番になり現在は「GM-LJP」シリーズに置き換わっています。
現在では既に過去のモータとなってしまいましたが、依然として現役で活躍し続けているモータでもあります。
このモータについてはメーカー修理や部品供給がすでに終わっているため、現状では点検の意味がかなり薄れているかもしれませんが、年に1回のブレーキ点検は欠かしていないという方も一定数おられるのではないでしょうか。
「GM-LJ」シリーズはブレーキ付になると「GM-LJB」という形番になり、容量が0.4〜2.2kWまでと3.7kW以上とでは、ブレーキの構造が異なります。
この記事では、「GM-LJB」シリーズの中でも0.4kW〜2.2kW仕様について、ブレーキ点検の方法を改めて解説していこうと思います。やり方の確認やモータ更新の目安にするなど、何かの参考になれば幸いです。

まだこのタイプのギヤードモータはよく見かけますね
GM-LJB(0.4〜2.2kW)ブレーキ部の外観
GM-LJB(0.4〜2.2kW)のブレーキ部の外観は下の写真の通りです。

ブレーキ部にボルトが取り付いているのが特徴で、このボルトの長さ(中への押し込み長さ)を変えることでブレーキトルクを調整することができます。
ブレーキ部の上に付いている箱には整流器が入っていて、入力した交流電圧を直流電圧に変えてブレーキを駆動させています。
点検はこのブレーキを分解して、中の状態を確認したりブレーキ板の厚みを計測するなどの作業になります。
では、実際にこのブレーキをどのような手順で点検していくのかを見ていきましょう。

ギャップの測定は必要ないタイプのブレーキです
ブレーキの点検手順
それでは点検を始めていきます。
設備が動かないよう固定する

ブレーキは設備が動かないよう状態をキープする役割も果たしていますので、分解するとブレーキが利かなくなって設備が自重で動き出してしまう可能性があります。
このような状態になると、作業者が挟まれるなどの事故が発生する恐れがあり大変危険です。
まずはブレーキを分解する前に必ずストッパーを入れるなどし、ブレーキが利かなくても設備が動かないよう処置を行ってください。

点検を行う前に電源を切ることも忘れないでくださいね
ボルトの長さ計測
設備の固定処置ができたら、ブレーキ部を分解する前にブレーキボルトの長さを計測します。

ブレーキ部は中のスプリングで常に押された状態になっているため、あらかじめブレーキを開放状態(スプリングの力を無くす)にしてから点検する方が安全に作業できます。
ブレーキはこのボルトを緩めることで開放できるのですが、最初のトルク設定が分からなくなると困りますので、事前にボルトの長さを測定して記録しておきます。
ボルトの長さは基準さえ決めておけばどのように測定しても問題はありません。僕の場合は写真のようにノギスを使用して、ボルトの頭からブレーキの端面までの長さを計測しています。
ちなみに、このモーターの場合は約26.5㎜ぐらいでした。
ブレーキを開放する
ボルトの長さを計測したら、ボルトを緩めてブレーキを開放します。
ボルトは根元のナットでロックされていますので、まずはナットを緩めてロックを解きます。

写真では分かりやすいように5〜6㎜ナットを浮かせていますが、復旧時のボルト長さの目安が分かりやすいよう、緩んで少しでも回っていれば十分です。
ナットが緩んだらボルトを反時計回りに回転させてボルトも緩めていきます。

ボルトを緩めるとブレーキが利かなくなっていきますので、設備が動き出していないか確認しながらゆっくりと緩めるようにしてください。
ボルトは手で簡単に回るぐらいユルユルにしておきます。完全に抜いてしまってもいいですが、無くす可能性がありますので、ボルトは付けたままの方が無難です。

ブレーキが開放できたら次のステップです。
ブレーキ部を分解する
ブレーキ開放ができたら次はブレーキ部を分解します。
ブレーキ部の分解は写真の六角穴付ボルト×4本を緩めることで簡単に行うことができます。

六角穴付ボルトはこのボルトの他にモータ側にもありますので、誤ってモータ側のボルトを緩めないように注意しましょう。

このボルトを取り外すとブレーキ箱が外れて、中に収納されているスプリングや可動鉄心を取り出すことができます。
スプリングや可動鉄心はブレーキ箱と一緒に付いてきますので、ブレーキ箱のモータ側を下に向けてしまうと、中のスプリングや可動鉄心を下に落としてしまう可能性があります。必ずブレーキ箱はモータ側を上に傾けながら慎重に外すようにしてください。
尚、ブレーキ箱には配線がありますので、落として配線が引っ張られたりしないよう安定している場所に置いておきます。
ブレーキ内部の点検
ブレーキ箱の点検
外したブレーキ箱の内側はこのような形になっています。

ブレーキ箱の真ん中にある穴には丸いプレートとスプリングが入っており、このスプリングが可動鉄心を押すことでブレーキを掛けるという仕組みになっています。
穴の外側にはブレーキコイルが入っていて、抜け出ないようスナップリングで固定されています。ブレーキコイルは外す必要はありませんが、コイル表面に割れや焦げなどの不良がないか、目視にて点検を行いましょう。
可動鉄心・プレート・スプリングの点検
次に取り外した可動鉄心・プレート・スプリングです。
中から取りだした可動鉄心・プレート・スプリングを置く際は、綺麗なウエスなどを敷いてその上に置くようにします。

可動鉄心はブレーキ板と直接触れる部品なので、表面に傷や摩耗などがないか目視でチェックします。ブレーキダストなどで汚れている場合は、パーツクリーナー等を使用して綺麗に清掃しましょう。
スプリングやプレートは特に見るところはありませんが、割れなどの異常が無いかは確認しておく必要があります。
ブレーキ板の点検

ブレーキ板はモーター側のボスに取り付いています。ブレーキ板のどっちがモータ側か分かるよう、念のためボスとブレーキ板に印を付けて取り外します。

ブレーキ板の当たり面が変わると、まれにブレーキの利きが悪くなる場合があります
ブレーキ板とボスの間に隙間がありますので、工具等を差し込めば取り外しやすくなります。


ブレーキ板はブレーキの肝となる部品ですので、表面に割れなどがないか入念にチェックしましょう。
外観のチェックが終わったら、ブレーキ板の厚みを測定します。

今回のブレーキ板の厚みは7.9mmでした。
ブレーキ板の厚みが5mm以下になっていたら交換時期となります。

正規のブレーキ板はもう手に入りませんので、ブレーキ板が減っていたらモータごと交換が必要になります
ブレーキの組み立て
各部品の点検が終わりましたら、分解とは逆の手順で1つずつ組み立てていきます。

ブレーキ板を取り付ける前に、ブレーキの中に溜まったダストなどの汚れをパーツクリーナー等を使用して清掃しましょう。
清掃が終わったら、外す前に付けておいた印に合わせてブレーキ板を取り付けます。

ここで、ブレーキ板を取り付けたときにボスとブレーキ板の間にガタがないか確認しておいてください。ガタが大きいと、停止精度が悪くなるなどの原因になります。(運転中にカラカラ音が鳴るのはこの部分のガタによるものです。)
ブレーキ板を取り付けたら、ブレーキ箱に外した部品を順番に組み込んでいきます。
まずはブレーキ箱の穴にプレートを挿入

続いてスプリングを挿入

スプリングを挿入したら、ブレーキ箱のピンに合わせて可動鉄心をはめ込みます。

可動鉄心は必ずブレーキ板と接触する面(キラキラしている面)を上にして組み込ます。
反対に組み込んでしまうとブレーキ板が偏摩耗する原因になりますので、しっかりと確認してください。


ブレーキ箱に部品を組み終わったら、落下させないように抑えながら慎重にモータへ組み付けます。

ブレーキ箱をはめ込んだら、六角穴付ボルトにて確実に固定を行います。

相手側は鋳物にタップが切られていますので、締めすぎないよう適度な力で六角穴付ボルトを締め付けてください。
ブレーキボルトのセット
ブレーキ箱の取り付けが終わったら、ブレーキボルトねじ込んでブレーキトルクを掛けていきます。

ブレーキボルトが最初に計測した長さになるまで、計測しながらねじ込んでいきます。

ブレーキボルトが所定の長さまでねじ込むことができたら、ナットを締め付けてブレーキボルトを固定します。

ナットが緩まないようしっかりと締め付けを行いましょう。
最後にもう一度ボルトの長さを確認します。


これでブレーキ部の復旧は完了です。
モータの試運転
ブレーキの復旧が完了したら電源を投入し、実際にモータを動かして動作確認を行いましょう。
モータをインチング動作させてブレーキからカンッカンッと小気味よい開放音が鳴っていることを確認します。また、連続運転でモータがスムーズに回転し、停止時にブレーキが正常に作動するかなども合わせてチェックしてください。
可能であればモータの駆動電流を測定し、正常値範囲であることまで確認できればベターです。

ブレーキが正常に作動していないと過負荷などの原因になってしまいます。試運転は入念に行ってくださいね
まとめ

以上、三菱電機製ギヤードモーター「GM-LJB」シリーズ(0.4〜2.2kW)のブレーキ点検について解説しました。
本シリーズのモータはすでに生産中止となっており、修理や部品の供給も打ち切りとなっていますので、点検時に摩耗や異常が見つかった場合は早めに交換計画を立てることが非常に大事です。
特に、ブレーキの不具合は設備停止だけでなく人の安全にも直結するため、放置すると大きなトラブルや事故に発展するリスクがあります。現場の運用状況を考慮しながら、計画的なメンテナンスや後継機種への更新を検討し、トラブルを未然に防ぐようにしていきましょう。