【油の粘度とは?】表記の意味やその特徴について解説
減速機などの潤滑油や油圧機器の作動油など、油(オイル)には用途に応じて様々な種類が存在します。
これらの油の仕様を眺めていると「粘度」という項目が必ず存在し、その粘度は数字で表記されています。
用途に適した油を選ぶ際には、この「粘度」を考慮して選定する必要があります。しかし、同じ種類の油であっても「粘度」の違いによって多くのバリエーションがあり、どれを選んだら良いのか迷ってしまうことがあると思います。
この記事では油の「粘度」に焦点を当て、「粘度」を表す数字の意味や特徴など基本的なことについて解説していきます。是非参考にしてください。
粘度に表記されている数字って、何かややこしいよね
「粘度」とは?
「粘度」とは、油の粘り具合を数字で表したもののことを言います。
粘度が高い油は粘り気が強くドロドロしており、粘度が低い油は粘り気が弱くサラサラとした形状をしているのが特徴です。
例えば、粘度の高い油はハチミツのように傾けてもゆっくりと流れていきますし、粘度の低い油は水のようにサッと流れていきます。
このような特徴を表したのが「粘度」というスペックです。
では粘度はどのように数字で表されているのでしょうか。
粘度を示す数字について
油の粘度を表す数字について解説していきます。
エンジンオイルの粘度
エンジンオイルの粘度は数字を使って次のように表現されています。
○○Wー○○
例えば「5Wー30」であったり「0Wー50」といった感じですね。
エンジンオイルの場合は「○○W」の部分が低温環境での粘度、「ー○○」の部分が高温環境での粘度を表しています。
この○○に入る数字が小さくなるほど粘度は「低く」なり、逆に数字が大きくなると粘度は「高く」なります。
つまり、「○○W」の数字が低いほど、寒い低温環境でもオイルはサラサラしており、数字が高いほど低温環境下でのオイルはドロドロとしてきます。また、「ー○○」の数字が低いほど高温環境になるとオイルがサラサラになり、数字が高いほど高温環境下でもオイルのドロドロ感がキープされやすくなります。
これらの特性を表したのが「○○Wー○○」という表記で、この表現方法を「SAE粘度分類」と呼んでいます。
Wは「WINTER:冬」の頭文字を取ったものだよ
この表現方法は、カー用品店などでエンジンオイルを選ぶ際に見たことがある方も多いのではないでしょうか
潤滑油の粘度
潤滑油の粘度は「ISO VG」という表現方法で表されるのが一般的です。この「ISO VG」というのは国際規格で定められた粘度グレードのことで、40℃の環境下における油の流れにくさを表したものになります。
VGの後ろには「32」や「150」といった数字が入り、この数字によって油の粘度を表現します。例えば「ISO VG32」や「ISO VG150」という感じですね。
エンジンオイルの時と同様に、このVGの後ろに来る数字が少なければ粘度が低くサラサラとした油になり、数字が多ければ粘度が高いドロドロとした油になります。
これらの表現方法を「ISO粘度分類」と呼んでいます。
現場では32番の油とか150番の油という呼び方をしているね
粘度の違いによる油の特性について
数字が少ないほど粘度が低く、多いほど粘度が高い油になるということが分かりましたが、この粘度の高い・低いで油にはどのような特性が生まれるのでしょうか。
粘度の低い油の特性
駆動機械に対する抵抗が少ない
低い粘度の油はサラサラとした状態であるため、回転したり上下に摺動する駆動装置に対する抵抗が少なくなります。
よって、エンジンオイルに粘度の低い油を使用するとエンジンの始動性や燃費が良くなり、スムーズに回転や摺動できることによって、エンジンの動きが軽くなります。
油浴式の減速機においても同様にギアの回転に対する抵抗が少なくなるため、モーターの回転負荷が低くなって電流値も安定します。
油膜が切れやすい
低い粘度の油はギヤなどの表面に形成される油膜が薄く、サラサラとしているため流れやすく残りにくいというデメリットがあります。
なので、高負荷で動作の遅い機械よりは、比較的低負荷で高速回転の機械の方が向いていると言えます。
粘度の高い油の特性
駆動機械に対する抵抗が大きい
高い粘度の油は低い粘度の油とは逆にドロドロとした形状であるため、機械の駆動に対する抵抗が大きくなります。
そのため、高速動作する機械においては粘度の高さによる抵抗が働くため、エンジンなどは始動性が悪くなるなど、駆動効率が落ちてしまいます。
油膜が定着しやすい
粘度の高い油はハチミツのようにドロッとしているため、ギアの表面に定着しやすく流れにくいというメリットがあります。
また粘度の高い油は油膜が厚く形成されるため、金属同士の接触が起こりにくく、特に高負荷の機械に適していると言えます。
粘度の低い油と高い油はメリット・デメリットが逆の関係ですね
温度による粘度の変化について
油の粘り具合は粘度グレードの違い以外に、温度によっても変化します。
温度が低くなると粘度は高くなる
周囲の気温などにより温度が低くなると、同じ油の粘度グレードでも粘度が高くなるという性質があります。
なので、夏の暑い日よりも冬の寒い日の方が油は硬くなり、サラサラとした油でも粘っこくなります。
これは、油の温度の低下によって分子の運動が鈍くなるためで、分子同士の摩擦が増加することで粘度が上がり、流動性が低下します。
温度が高くなると粘度は低くなる
逆に気温や使用条件などによって油の温度が上がると、同じ粘度グレードの油でも粘度が低くなるという性質があります。
油の温度が上昇すると油の分子は活発に動き始め、分子同士の摩擦が減少します。その結果、粘度が下がることで油が流れやすくなるのです。
油の粘度指数について
油の粘度は温度によって変化するというお話をしましたが、その変化の度合いは「粘度指数」によっても変わってきます。
「粘度指数」は「VI:Viscosity Index」とも表現され、この粘度指数(VI)が高い油は温度による粘度変化が少なく、粘度指数(VI)が低い油は温度による粘度変化が大きいことを表しています。
油の粘度指数は90〜100前後が一般的で、高粘度指数をうたうもので150前後、中には300を超えるものも存在します。
温度が変化しても安定した性能を求めたい場合は、粘度指数にも着目して油を選定すると良いでしょう。
粘度指数はメーカーが公表しているスペックシートを見れば分かるようになっています
粘度に応じた機械への使い分けについて
油の粘度に応じた機械への最適な使い分けについて解説していきます。
減速機の潤滑油
一般的な油浴式の減速機(ギアボックス)などの密閉式歯車に使用する潤滑油は、ISO VG150〜220といった比較的ドロドロした油を使用するのが一般的です。
他にも、回転数が速く負荷が低いものについてはISO VG32〜46、回転数が速く負荷が比較的高いものについてはISO VG100、回転数が遅く負荷が高いものにはISO VG320〜460というように、回転数や負荷に応じて粘度を変えていくことで、最適な潤滑を行うことができます。
ギアなどの潤滑で使用される油は「メカニックオイル」と呼ばれているよ
油圧機器の作動油
油圧シリンダーなどの油圧機器の作動油は、ISO VG32〜46などのサラサラとした油を使用するのが一般的です。
周囲の温度が40℃を常に超えるような比較的高温の環境下においては、ISO VG68〜100のものが最適な粘度になります。
油圧機器の作動油は「ハイドロオイル」とも呼ばれています
コンプレッサーの潤滑油
コンプレッサーはピストンを駆動して圧縮空気を作り出す機械で、様々な空圧機器の動力源として広く利用されています。
このコンプレッサーはピストンを摺動させて空気を圧縮させるため、このピストンの動きを滑らかにするための油(コンプレッサーオイル)は、ISO VG68といった粘度の低いものが使われます。
コンプレッサーオイルにはピストンの摺動を滑らかにするだけでなく、気密性の保持や冷却の役割も担っています。
真空ポンプの潤滑油
真空ポンプは、内部のローターと呼ばれる部位を回転させて空気を吸引し、真空を作り出す機械のことを言います。
ポンプのケーシングの中をローターが摺動しながら回転するため、その動きを滑らかにするために潤滑油が使用されます。
油の粘度はISO VG68と比較的粘度の低いものが用いられ、ケーシングとローターの潤滑だけでなく、機密性を高めて吸気・排気効率を向上させるという、コンプレッサーオイルと同じような役割があります。
油の役割は潤滑だけじゃないんだね
タービンの潤滑油
タービンとは、蒸気や水などの流体が持つ運動エネルギーを回転運動に変える装置で、発電機の動力として使われています。
タービンは高速で回転する装置であるため、その軸受けなどの潤滑用にはISO VG32という粘度の低い油が使用されます。
タービンで使われるタービン油(タービンオイル)は油圧の作動油なみに粘度が低いことから、油圧ジャッキの作動油として使われることもあります。
用途にあった最適な粘度のものを選びましょう
以上、油の粘度について表記の意味や特徴等について解説しました。
油の粘度をまとめると次のようになります。
- 数字が大きいと粘度は高い(ドロドロしている)
- 数字が小さいと粘度が低い(サラサラしている)
- 粘度指数が高いと温度による粘度の変化が起こりにくい
- 粘度指数が低いと温度による粘度の変化が起きやすい
使う機械の環境や用途に応じて、選ぶべき最適な粘度の油は変わってきます。また、機械のメーカーによっても推奨される粘度の数値が微妙に異なる場合もあります。
使用する機械の取扱説明書をよく読み、正しい油の粘度や種類を選んで使用するようにしましょう。