大崎電業社製ESBブレーキの仕組みや点検方法、ギャップ調整について解説
クレーンなどの荷役設備や搬送設備、産業用機械などには必ず「ブレーキ」が使われています。
ブレーキとは、モーターなどで動作させた機械を止めたり、動かない状態を保持したりするための装置です。
ブレーキには油圧で動作する油圧ブレーキや、機械的な仕組みで力を加えて動作する機械式ブレーキなど、様々な種類が存在します。
その中でも、産業用として最も使われているのが電気の力でブレーキを動作させる「電磁ブレーキ」です。
この記事では、そんな電磁ブレーキのベストセラーである大崎電業製ESBブレーキについて、仕組みや点検方法・ギャップ調整方法等について解説していきます。
大崎電業社のESBブレーキは昔から現在に至るまで様々なところで目にします。是非、メンテナンス方法をマスターしてください。
電磁ブレーキとは
電磁ブレーキとは電磁石の吸引力を使ってブレーキを動作させる装置です。
電磁ブレーキには主に以下の2種類があります。
- 「励磁作動形」 :電磁石に電圧を加えてブレーキを掛ける
- 「無励磁作動形」:電磁石に加えた電圧を切ってブレーキを掛ける
産業用で使われる電磁ブレーキは「無励磁作動形」のものが一般的です。
大崎電業社のESBブレーキもこの無励磁作動形となります。
無励磁作動形の動作原理
引用先:三木プーリー(電磁クラッチ・電磁ブレーキの構造と動作原理)
上の図が無励磁作動形電磁ブレーキの一般的な構造を表しています。
ロータハブは回転するモーター等の軸に繋がっており、ロータと一緒に回転します。
電気が何もない状態(OFF)では、トルクスプリングによって押されたアーマチュアがロータをプレートとサンドイッチすることでロータを動かなくし、ブレーキが掛かった状態になります。
引用先:三木プーリー(電磁クラッチ・電磁ブレーキの構造と動作原理)
次に一定の電圧をコイルに掛ける(ON)と、コイルとステータが電磁石となってアーマチュアをステータ側へ引き寄せます。すると、ロータは何にも押されていない状態になるので回転できるようになります。
引用先:三木プーリー(電磁クラッチ・電磁ブレーキの構造と動作原理)
これが無励磁作動形電磁ブレーキの動作原理です。
なぜ無励磁作動形が産業用でよく使われるのか?
荷役設備などの産業用機器でなぜ無励磁作動形がよく使われるのかというと、「安全性」を重視しているからです。
電圧を掛けてブレーキを作動させるタイプの励磁作動形電磁ブレーキの場合、設備の稼働中に停電が発生したり、ブレーキの配線が何らかの理由で断線すると、停止できずに落下などの事故が発生するリスクがあります。
その為、電圧を切ることでブレーキを掛けることができる無励磁作動形の電磁ブレーキが産業用で主に使われるというわけですね。
ESBブレーキの仕組みについて
大崎電業社のESBブレーキの構造や特徴について解説します。
ESBブレーキの構造
引用先:株式会社 大崎電業社(無励磁作動形電磁ブレーキ ESB標準シリーズ)
大崎電業社のESBブレーキの構造は上図の通りです。基本的な構造は一般的な無励磁作動形電磁ブレーキと同じです。
ハブに接続された軸の回転力は、制動バネに押されたアーマーチュアがアウターディスクとインナーディスクを挟み込むことでブレーキが掛かります。
ブレーキを開放する場合は、フィールドと呼ばれる電磁石に電圧を加えることでアーマーチュアが引き寄せられ、アウターディスクとインナーディスクの間に隙間ができてハブが回転できるようになります。
ESBブレーキの型式
ESBブレーキは定格ブレーキトルクによって型式とサイズが変わります。
引用先:株式会社 大崎電業社(無励磁作動形ブレーキ ESB標準シリーズ)
型 式 | 定格トルク <Nm> | 外径 <㎜> | 重量 <㎏> |
ESB-80 | 3.0 | 80 | 1.2 |
ESB-100 | 7.5 | 100 | 2.5 |
ESB-115 | 17.5 | 115 | 3.6 |
ESB-135 | 35 | 135 | 5.8 |
ESB-165 | 75 | 165 | 11.0 |
ESB-190 | 150 | 190 | 16.3 |
ESB-220 | 300 | 220 | 25.0 |
ESB-250 | 600 | 250 | 36.5 |
尚、通常のESBブレーキは横向きの状態で取り付けますが、縦向きに対応したシリーズもラインナップされていて、型式はESB-RKAとなります。
引用先:株式会社 大崎電業社(無励磁作動形電磁ブレーキ ESB-RKA縦形シリーズ)
なぜ、わざわざ縦形シリーズがラインナップされているかというと、一般的な無励磁作動形電磁ブレーキは横向き取付けを前提としているからです。
電磁石にアーマーチュアを引き寄せたとき、ハブがフリーの状態になって回転できるようになるわけですが、一般的なブレーキが縦向きに付いていると、アウターディスクとインナーディスクが重力でアーマーチュアの方に乗っかってきます。ディスクにはある程度の重さがあるので、それが負荷となって少しブレーキが掛かったような状態になり、熱が発生したりモーターが過負荷になったりします。
RKAシリーズは、フローティング装置というインナーディスクがアーマーチュアまで下がってこない機構を搭載しており、ブレーキを開放してもアーマーチュアに触れないようになっています。
他社の縦形用ブレーキはスプリングでディスクを浮かせるようにしたりと、各社様々な工夫で対応しています。
ESBブレーキの電源
ESBブレーキは直流動作の直流ブレーキです。なので、商用電源から直流に変換した電圧を掛けて動作させる必要があります。
とは言え、ユーザー側で特別に難しいことをするわけではなく、専用の「パワーモジュール」という電源装置を使います。
パワーモジュールにはブレーキの種類やサイズによって適用機種が異なるので、対応したものを選定して使う必要があります。
型 式 | 入力電圧 | 対応ブレーキ |
HD-110M3 | AC200/ 220V | ESB-135〜250 |
HD-120M | AC200/ 220V | ESB-165RKA 〜250RKA |
HD-100M | AC200/ 220V | ESB-80〜115 |
HD-100MA | AC100/ 110V | ESB-80〜115 |
結線図
引用先:株式会社 大崎電業社(無励磁作動形ブレーキ&電源装置)
パワーモジュールへの配線は上図の通りです。
ブレーキへの配線はモジュールの「3」と「4」に繋ぎ、「1」と「2」には交流電源を接続します。
モーターの電源とブレーキの電源を一緒に入り切りする同時切りや、モーターの電源とブレーキの電源を別々に入り切りする別切りについては、モジュールの「5」と「6」を線で接続(短絡)します。インバータで駆動する場合は別切りが必須です。
ブレーキの制動時間を早めたい場合は、モジュールの「5」と「6」を電磁接触器の接点で開閉するように接続する直流開閉にします。昇降装置など、少しでもブレーキの制動時間を少なくしたい場合は直流開閉にすると良いでしょう。ただし、直流成分を入り切りすることになるので、接続する接点にはバリスタなどのサージ吸収用の素子を取り付けて、接点保護対策を行ってください。
過励磁機能
大崎電業社のパワーモジュールには過励磁機能を備えている機種があります。
具体的には上表のHD-110M3・HD-120M、もう少し大きなブレーキ用のHD-133V・HD-140Mが過励磁機能を搭載しています。
過励磁機能とは、ブレーキを開放する瞬間に高い電圧を掛けてアーマーチュアを吸引し、ブレーキを開放してアーマーチュアを保持している間は低い電圧に落とすという機能です。クレーン業界では弱励磁・強励磁といった言い方をしますね。
HD-110M3は解放時にDC180〜198Vでコイルを励磁し、DC90〜99Vで保持します。HD-120Mは解放時にDC180〜198Vでコイルを励磁し、DC45〜50Vで保持します。
過励磁機能は、確実かつ素早いブレーキの開放・連続運転時の温度上昇や消費電力の削減に効果を発揮します。
通常、過励磁機能の実現は複雑な回路を必要としますが、大崎電業社のパワーモジュールはそれをモジュール側で自動でやってくれます。
ESBブレーキの点検
通常の電磁ブレーキと同様、ESBブレーキにも日々の点検作業が不可欠です。
正常に動作しているか?
まずは実際にブレーキを動作させてみて確認を行います。
ESBブレーキは基本的にはむき出しで取り付いていることが多いので、動作状態は目視で確認できるかと思います。ただし、クレーンなど本体が動く装置については十分に安全を確保し、無理に近づいたりしないようにしましょう。
また、ブレーキ動作時は「カンッ」という乾いた音がしますので、動作時にしっかりと音が鳴っているかどうかや、音が以前と変わっていないかなど、耳による確認も非常に有効的です。
取付ボルトが緩んでいないか?
次はブレーキの取付ボルトが緩んでいないかを、外観上に異常がないかを含めてチェックします。
取付ボルトが緩んでいると停止時のガタつきが大きくなったり、叩かれることによって取付ボルトの折損やブレーキ本体の破損にも繋がるため、確実にチェックしましょう。
油の付着や侵入がないか?
次にESBブレーキ本体に油の浸入がないかをチェックします。
ESBブレーキ本体は油やホコリの侵入を防ぐ構造にはなっていないので、万が一油がブレーキに垂れてくると隙間に侵入する恐れがあります。侵入した油がインナーディスクやアウターディスクの表面に付着すると、ブレーキが滑る原因になります。
もし油がしたたり落ちているような状態を見つけたら、直ちに清掃して状態を改善してください。
ブレーキの中に油が侵入してしまってブレーキが滑るようになってしまった場合は、ブレーキのインナーディスクとアウターディスクにパーツクリーナーを掛けることで改善される場合があります。それでも改善しない場合は、分解して清掃する必要があります。
ブレーキギャップの測定
最後はブレーキギャップが規定値内におさまっているかを測定して確認します。
ブレーキギャップとはフィールドとアーマーチュアの隙間のことを言い、その部分にシックネスゲージを差し込んで隙間を測定します。
シックネスゲージはなるべく長いものを使い、貫通させるようにして円周をまんべんなく測定していくのがベターです。
ブレーキギャップの規定値は以下の通りです、この数値を基に調整の必要性を判断してください。
型 式 | 規定値 | 限界値 |
ESB-80 | 0.3 | 0.7 |
ESB-100 | 0.3 | 0.7 |
ESB-115 | 0.3 | 0.7 |
ESB-135 | 0.5 | 2.0 |
ESB-165 | 0.5 | 2.0 |
ESB-190 | 0.5 | 2.0 |
ESB-220 | 0.7 | 2.0 |
ESB-250 | 0.7 | 2.0 |
基本的にはブレーキギャップが限界値まであと0.1㎜ぐらいまでになったら調整しましょう。
ブレーキギャップが広すぎるとどうなるか?
ブレーキギャップが広がる原因はブレーキのインナーディスクが摩耗するためです。ブレーキを使用しているとインナーディスクのライニング材が摩耗して段々薄くなってきます。
ディスクが摩耗して薄くなると、その分アーマーチュアが外側に押される量は増えるので、必然的にブレーキギャップが大きくなるわけですね。
ブレーキギャップが限界値まで達すると次のような不具合が発生します。
ブレーキトルクが弱くなる
ブレーキギャップが広がるということは、それだけ制動バネが伸びてしまうということになりますので、ブレーキトルクが弱くなります。
ブレーキトルクが不足すると、ブレーキの効きが悪くなって装置が止まりきらない・昇降装置がずり落ちるといった現象が発生します。
ブレーキが開放出来なくなる
フィールドがアーマチュアを磁力で引き寄せる為には、ある一定の距離を保つ必要があります。ブレーキギャップが限界値を超えると、フィールドがアーマーチュアを引き寄せられなくなり、結果ブレーキが開放出来なくなります。
ブレーキが開放出来ないと無理にモーターを回してしまうということになり、発熱・過負荷・ディスクの異常摩耗など様々な不具合が発生します。
このような不具合を発生させない為にも、限界値近くまでギャップが開いてしまったブレーキは調整を必ず行いましょう。
ブレーキギャップの調整方法
ブレーキギャップの調整は次の手順で行っていきます。
ブレーキを手動開放する。
まずはブレーキを手動開放します。
※自重で動くような設備の場合には、固定するなどの安全処置を行ってから開放作業を行ってください。
上の写真の様に、ブレーキの穴に六角穴付ボルトを2本入れて締め込みます。アーマーチュアにはネジが切ってあるため、このボルトを締め込むことでフィールドにアーマーチュアが密着し、ブレーキを開放することができます。六角穴付ボルトが手元にない場合でも、同じような長さのボルトでワッシャーを入れて締め込めば、何とか開放することはできるかと思います。
注意点としては、あまり長いボルトを使わないということです。ボルトが長すぎると、アーマーチュアを貫通したボルトの先端がアウターディスクに当たり、変形させてしまう恐れがあります。ボルトの先端とアーマーチュアの密着具合を見ながら、慎重にブレーキ開放を行ってください。
使用するボルトについては下記の通りです。
型 式 | ボルト仕様 |
ESB-80 | M4×25L |
ESB-100 | M5×35L |
ESB-115 | M5×35L |
ESB-135 | M6×40L |
ESB-165 | M6×50L |
ESB-190 | M8×55L |
ESB-220 | M10×60L |
ESB-250 | M12×65L |
回り止めストッパーを取り外す
ブレーキが開放できたら、次にブレーキ側面についているストッパーを取り外します。
ストッパーは六角穴付ボルトでセンターリングに固定されていますので、この六角穴付ボルトを取り外してストッパーを抜き取ります。
このストッパーを抜き取ると、ギャップ調整ネジが回せるようになります。
ギャップ調整ネジを回す
ストッパーを取り外したら、ギャップ調整ネジを回してギャップを調整します。
ギャップ調整ネジはセンターリングの中に仕込まれており、上の写真のように隙間から薄い板状の棒を入れてギャップ調整ネジの溝に差し込むことで回すことができます。
ギャップ調整ネジをフィールド側から見て左に回すとギャップは狭くなり、右に回すとギャップは広くなります。状況に応じて回してください。
ギャップ調整ネジには周囲に溝が8箇所あるので、回しては棒を抜いてを繰り返して規定のギャップになるまで調整を行います。
ストッパーを取り付ける
規定のギャップになったら、ストッパーを一番近い溝にセットして固定します。ストッパーを取り付ける為のネジ穴はセンターリングに何箇所か開いているので、一番適当な箇所を選んで取り付けます。
最後に気を抜いてはいけないのが、ストッパーの取付状態の確認です。
ストッパーを取り付けたあとは、ギャップ調整ネジからストッパーの側面がアウターディスク側へはみ出していないか必ず確認するようにしてください。
ストッパーがアウターディスク側へはみ出してアウターディスクと干渉してしまった場合、アーマーチュアがアウターディスクとインナーディスクを十分に押しつけることができなくなるので、ブレーキトルク不足などの不具合が発生する可能性があります。
ブレーキの手動開放を解く
ストッパーの取付確認が終わったら、ねじ込んだボルトを取り外して手動開放を解きます。手動開放の状態は機械的なブレーキが全く効きませんので、この状態で運転すると大変危険です。必ず忘れないように手動開放を解いておきましょう。
ブレーキギャップを再チェックする
ブレーキの手動開放を解いたら、再度ブレーキギャップを測定して規定値範囲内か確認します。制動バネが効いている状態とそうでないときでは、微妙にブレーキギャップが変わる可能性があります。なので、必ず一番最後にブレーキギャップを確認しましょう。
もし、ブレーキギャップの再調整が必要になった場合は、再度同じ手順でブレーキギャップの調整を行ってください。
必要であればインナーディスクを交換する
もしギャップ調整ネジの調整で規定値までギャップが調整できなかったり、何度も調整を行っている場合はインナーディスクの摩耗が進行している可能性もあります。
インナーディスクの厚みも定期的に測定し、摩耗限界に近くなっていれば交換してください。
型 式 | 初期厚さ<㎜> (1枚あたり) | 限界厚さ<㎜> (1枚あたり) |
ESB-80 | 3.0 | 1.4 |
ESB-100 | 3.0 | 1.4 |
ESB-115 | 3.0 | 1.4 |
ESB-135 | 4.0 | 2.0 |
ESB-165 | 4.5 | 2.9 |
ESB-190 | 5.5 | 3.1 |
ESB-220 | 5.5 | 3.1 |
ESB-250 | 6.0 | 3.6 |
尚、大崎電業社ではインナーディスクを交換する場合はアウターディスクも同時に交換することを推奨しています。
ブレーキは定期的にメンテナンスしよう
以上、大崎電業社製ESBブレーキについて、仕組みやそのメンテナンス方法について解説しました。
大崎電業社のESBブレーキは機械的寿命が制動回数100万回と堅牢かつ長寿命ですが、日頃のメンテナンスをおこたるとやはり不具合に発展する可能性があります。
どんな機器でもそうですが、正しくメンテナンスを行えば長期に渡って安定して動作し続けてくれます。
この記事ではESBブレーキに絞って解説しましたが、電磁ブレーキのメンテナンス方法はだいたいどこのメーカーも同じです。ギャップ調整の方法が若干異なるぐらいですね。
電磁ブレーキはメンテナンスを真面目に行わないと不具合の発生しやすい機器です。是非、日頃の点検をしっかり行ってトラブル0を目指してください。