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【基礎知識】ワイヤーロープの種類とその特徴について詳しく解説

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皆さんの職場ではワイヤーロープを使われていますでしょうか?

ワイヤーロープは各種産業から私たちの身の回りのものに至るまで、実に様々な分野で使われています。

ワイヤーロープは言ってしまえば鉄の針金をより合わせてロープ状にしたのものなんですが、用途によって様々な種類のロープが作られています。

この記事ではそんなワイヤーロープの基礎知識について、種類と特徴を解説していきながらお伝えできればと思います。

なべ
なべ

ワイヤーロープは用途によって様々な種類があります。まずは基本的なところから覚えていきましょう。

ワイヤーロープの構造

引用先:東京製綱(ワイヤーロープの概要

ワイヤーロープは一般的に上記の図のような構造をしています。

素線(鋼線)をより合わせたストランドを心綱(繊維心)の周りにより合わせて「ワイヤーロープ」が作られます

各部位の詳細は以下の通りです。

心綱(繊維心)

繊維心は麻心とも呼ばれ、天然繊維や合成繊維などをより合わせて作られています。この繊維心には油(グリース)がたっぷりと染み込ませてあり、ワイヤーロープに荷重が掛かると中から少しずつ油が出てきます。

この油によって、ワイヤーロープの素線同士がこすれて摩耗したり錆びたりしにくいようになっているわけですね。

一般的なワイヤーロープは心綱に繊維心を用いますが、鋼心を用いる「IWRC」という種類もあります。

鋼心は麻のような繊維ではなく鉄で出来た心綱のことを言います。より引っ張り強度を強くしたい用途で繊維心よりも鋼心が用いられる場合があります。

素線

素線はワイヤーロープのストランドを構成している細い鋼鉄製の針金のことを言います。表面は亜鉛メッキ処理が施されているのが一般的です。

ストランド

ストランドは素線を複数本より合わせたもののことで、これを繊維心などの心綱の周りにより合わせることでワイヤーロープとなります。

ワイヤーロープを作る際はこのストランドも複数本使用するのですが、最も一般的なストランドの本数は6本であることがほとんどです。

ワイヤーロープの種類

ワイヤーロープはJIS規格によって様々な種類が規格化されています。

交差より(点接触より)

「交差より」は同じ同径(同じ太さ)の素線をより合わせたもので、素線同士が点接触となっているのが特徴です。曲げによる耐久性はあまり期待できませんが、安価であるというメリットがあります。

交差よりのワイヤーロープは「〇×〇〇」で表現され、最初の数字がストランドの数で次の数が素線の数を表します。

6×19

引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)

19本の素線をより合わせたストランドを6本を繊維心により合わせたワイヤーロープです。

6×24

引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)

こちらのワイヤーロープは24本の素線をより合わせたストランド6本を繊維心により合わせたワイヤーロープです。

6×37

引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)

こちらのワイヤーロープは37本の素線をより合わせたストランド6本を繊維心により合わせたワイヤーロープです。

平行より(線接触より)

「平行より」は異なる線径の素線を用いて、内側の素線の谷間に外側の素線が重なるようにより合わせたものを言います。内側と外側の素線が隙間なくピッタリと接触しているので、素線同士が「点」ではなく「線(面)」で接触しているのが特徴です。

単位当たりの接触面積が交差より(点接触より)のものと比べて大きいので、耐疲労性に優れるというメリットがあります。

平行よりのワイヤーロープは「〇×Fi(〇〇)」や「〇×WS(〇〇)」といったアルファベットが入っているのが一般的です。

平行よりのワイヤーロープにはストランドの構造の違いにより、大きく「フィラー形」・「シール形」「ウォーリントン形」・「ウォーリントンシール形」の4種類があります。

フィラー形(Fi)

6×Fi(25)
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)

「フィラー形」は1本の素線の周りにある内側素線と内側素線の2倍の外側素線で構成され、隙間に細いフィラー線を入れてより合わせたワイヤーロープです。

図の「6×Fi(25)」では、1本の素線の周りに6本の素線とその外側に12本の素線が配置されており、隙間には6本の細いフィラー線が入っています。

1本の素線と6本の素線、その周りに12本の素線と6本のフィラー線なので、1+6+12+6=25、そのような構成のストランドが6本より合わさっているので、「6×Fi(25)」という表現になります。

このフィラー形は柔軟性や耐摩耗性のバランスが優れていて、一番広範囲に使用されているワイヤーロープです。クレーン関係のワイヤーロープもこのフィラー形がとても多いですね。

シール形(S)

6×S(19)
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)

シール形のワイヤーロープは、1本の素線周りにある内側素線と外側素線が同じ数だけ配置されており、内側素線が素線同士の隙間にピッタリと収まっているのが特徴です。

図の「6×S(19)」では1本の素線の周りに細い9本の素線と太い9本の素線が配置されているので、1+9+9=19で「6×S(19)」という表現になります。

このワイヤーロープは外側の素線が太いことから摩耗に強いという特徴があります。その為、耐摩耗性が求められるエレベーターといった用途によく用いられます。

ウォーリントン形(W)

6×W(19)
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)

「ウォーリントン形」は「フィラー形」と同じように、1本の素線の周りに内側素線と内側素線の2倍の外側素線で構成されているのですが、外側素線の線径を変えることで素線同士の隙間を無くすという構造になっています。

このウォーリントン形のワイヤーロープは各素線の外径差が少ない為、引張強度が高いといったメリットがあるのですが、外側素線に細い素線があることから耐摩耗性に劣るといったデメリットも存在します。

現在ではあまり使用頻度が高くないワイヤーロープです。

ウォーリントンシール形(WS)

6×WS(36)
引用先:株式会社ヤマカツ(JISワイヤーロープの種類・規格)

「ウォーリントンシール形」はウォーリントン形とシール形を組み合わせたワイヤーロープで、太い同径の外側素線の中に線径の異なる素線を隙間なく配置した構造となっています。ウォーリントン形とシール形の良いとこ取りという感じでしょうか。

柔軟性だけでなく優れた耐摩耗性や引張強度も両立したとても高機能なワイヤーロープです。

引張強度や耐摩耗性が求められる規模の大きなクレーンに用いられるなど、その使用範囲は多岐に渡ります。

ただし、素線数が多いことなどから価格が他のワイヤーロープと比べて割高となります。

ワイヤーロープのより方

ワイヤーロープにはより方の方向によって4種類あります。

引用先:トラデポ(ロープ・ストランドのより方)

普通Zより

引用先:もえろ!タマカケ魂(ワイヤーロープ)

「普通Zより」はロープのより方向が図のように反時計回りによられており、更にストランドのより方向がロープのより方向と逆になっているものを言います。ちょうどロープのより方向が「Z」の字を書くときの方向と同じなので「Zより」と呼ばれる訳ですね。

ワイヤーロープを注文するときに特に指定をしなければこの「普通Zより」になります。

「普通Zより」のワイヤーロープはロープとストランドのより方向が逆になっていることから、相殺されてよりが戻りにくいという特徴があります。その為、非常に扱いやすく玉掛けからクレーン等の設備まで幅広い用途で使用されています。

普通Sより

引用先:もえろ!タマカケ魂(ワイヤーロープ)

「普通Sより」はロープのより方向が図のように時計回りによられており、ストランドのより方向はロープのより方向と逆になっているものを言います。

ロープのより方向が「S」字を書くときの方向と同じなので「Sより」と呼ばれます。

この「普通Sより」についてもロープとストランドのより方向が逆なので、取り扱いがしやすいワイヤーロープとなっています。

ラングZより

引用先:もえろ!タマカケ魂(ワイヤーロープ)

「ラングZより」はロープのより方向とストランドのより方向が同じ反時計回りの「Zより」ワイヤーロープです。

ロープとストランドのより方向が同じである為、よりが戻りやすく型崩れしやすいというデメリットがあるのですが、「普通より」よりも柔軟性や耐摩耗性に優れるといったメリットもあります。

常に荷重の掛けたり回転しないようにガイドしたりと、使用には充分注意をする必要がりますが、上手く条件さえ整えてあげればとても有効的に活用できるワイヤーロープです。

ラングSより

引用先:もえろ!タマカケ魂(ワイヤーロープ)

「ラングSより」はロープのより方向とストランドのより方向が同じ時計回りの「Sより」のワイヤーロープです。

「ラングZより」とメリット・デメリットは基本的に同じです。

ZよりとSよりの使い分け

一般的な使い方では「普通Zより」が用いられるのが一般的ですが、「Sより」はどのような場合に用いられるのでしょうか?

よく用いられる使い方で多いのが、ワイヤーロープを複数掛けしたクレーンのフックですね。

写真のフックは2本のワイヤーロープをフックのシーブに通して吊り上げていますが、2本のワイヤーロープをどちらもZよりもしくはSよりにしてしまうと、1方向にフックが回転してしまうという現象が発生します。

これを防ぐために一方をZより、もう一方をSよりという組み合わせにします。

こうすることでよりが戻ろうとする力が相殺されて、フックが回転するのを防止することが出来ます。

フックが回転してしまうととても使いにくいですからね。

設備において吊り上げ用途にワイヤーロープを偶数本使用する場合は、ZよりとSよりを組み合わせて使用するのが一般的です。

ワイヤーロープの種別

ワイヤーロープには下の表のような5種類の種別があります。

種別公称引張強さ(N/㎡)
E種1,320
G種1,470
A種1,620
B種1,770
T種(特種)1,910

これらの種別はワイヤーロープに使用される素線の引張強さの違いによって分類され、E種→G種→A種→B種→T種となるにつれてワイヤーロープの破断荷重が大きくなります。

つまり、同じワイヤー径でもG種のワイヤーロープよりもB種のワイヤーロープの方が破断に強いワイヤーロープということになります。

クレーン関係ではB種のワイヤーロープが一般的によく使われます。

昔はT種の代わりにC種というものが存在しましたが、今ではその規格が無くなってT種に変わっています。

C種があった頃は1本100m切り売りといった買い方が出来たのですが、T種は最低ロットが何千mだったりするので、ちょっと買いにくくなっているのが難点だったりしますね。

ワイヤーロープの心綱の違い

左が繊維心入り、右が鋼心入り
引用先:フジロープ機材商会(意外とご存じないこと)

ワイヤーロープの中心にある心綱(しんづな)には大きく分けて2種類あります。

繊維心入りワイヤーロープ

ワイヤーロープの心綱に繊維心(麻心)を使用しているのが「繊維心入り」ワイヤーロープです。

繊維心のワイヤーロープは柔軟性に富んでいるので、玉掛け用途やクレーンの吊り上げ用途など、多くの現場や設備で幅広く使用されています。

繊維心のワイヤーロープは以下のメリットがあります。

繊維心のメリット
  • ワイヤーロープの柔軟性が高い
  • 繊維心に含まれたグリースにより潤滑性が高い
  • 繊維心に含まれたグリースにより中が錆びにくい

繊維心には油(グリース)がたっぷりと含ませてあり、ワイヤーロープが引っ張られることで少しずつ中から染み出してきます。これによりストランド同士の潤滑やロープ本体の錆びの発生防止に効力を発揮しています。

鋼心入りワイヤーロープ(IWRC)

心綱が繊維心ではなく鋼線材を使用した鋼心なのが「鋼心入り」ワイヤーロープです。

鋼心にも様々な種類があるのですが、一般的には独立した1本のロープを心に使用した「IWRC」が最もよく使われています。

ワイヤーロープの中にもう一本細いワイヤーロープがあるイメージですね。

鋼心入りワイヤーロープは繊維心入りワイヤーロープと比べて以下のようなメリットが有ります。

IWRCのメリット
  • 破断荷重が大きい
  • ロープが潰れにくい
  • ロープ伸びや径の減少が少ない

反面以下のようなデメリットも存在します。

IWRCのデメリット
  • 同径のワイヤーロープより重い
  • 同径のワイヤーロープより柔軟性に劣る
  • 中まで油分が浸透しにくい(中が摩耗・錆びやすい)

IWRCの選定には大きな破断荷重というメリットだけに目を向けるのではなく、重量やワイヤーロープが通るシーブへの影響など、周囲への様々な状況を考慮する必要があります。

また、IWRCのワイヤーロープは潤滑面で繊維心のワイヤーロープよりも劣るので、定期的なロープ油塗布などのメンテナンスを確実に行うようにしましょう。

プレテンション加工について

ワイヤーロープには「プレテンション加工」という製作したワイヤーロープにもう一手間加える加工方法があります。

引用先:日本スエーヂ工業株式会社(ワイヤーロープのプレテンション加工)

プレテンション加工とは、上の図のような引張装置でワイヤーロープを所定の荷重で引っ張ったり元に戻したりを繰り返すという処置のことを言います。

プレ(前もって)テンション(張力をかける)加工というわけですね。

この一手間をワイヤーロープに加えることで以下のようなメリットがあります。

プレテンション加工のメリット
  • ワイヤーロープの初期伸びを最小限に抑える
  • 径のバラツキなどの変形が起きにくくなる
  • 素線の配列が安定するので素線の耐疲労性が良くなる

ワイヤーロープの様々な特性向上が見込めるプレテンション加工ですが、一方でワイヤーロープの製作納期が長くなることや価格アップといったデメリットもあります。

とはいえ、初期伸びが小さいことによる施工時の調整のしやすさや、使用中の安定性など、享受できるメリットが非常に大きいので、可能であれば積極活用して頂ければと思います。

ちなみに、プレテンション加工を行っても破断荷重は変わらないので注意して下さい。

まとめ

以上、ワイヤーロープの種類や特徴についてお伝えしてきました。

ワイヤーロープは特性や使用用途によりとても沢山の種類が存在します。ここで述べさせて頂いたワイヤーロープはほんの一握りです。

各社しのぎを削って色々な機能をもったワイヤーロープを日々開発していますので、新しい情報を入手できたら改めてお伝えできればと思います。

<ワイヤーロープのおさらい>
  • ワイヤーロープには「交差より」と「平行より」がある
  • ワイヤーロープのより方には「Zより」と「Sより」がある
  • 構成される素線の引張強さによって種別が5種類に分けられる
  • 心綱には「繊維心」と「鋼心(IWRC)」がある
  • プレテンション加工でワイヤーロープの特性向上が見込める
ABOUT ME
なべ
なべ
エンジニア
設備保全一筋20年の保全マン。
専門は電気であるが、機械関係の仕事にも携わっている。
現在は営業・設計・製作・工事までを1人でこなすハードな毎日を送っている。
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