【分かりやすく】絶縁抵抗測定(メガー)のやり方と判定基準について解説
電気関係の保全業務を行ううえで避けて通れないのが「絶縁抵抗値の測定」作業です。
絶縁抵抗値の測定は漏電などの電気事故を未然に防ぐためにとても重要な作業であり、しかるべき判断基準に基づいて良否を判定する必要があります。
ただ、絶縁抵抗値の測定が重要とは言っても、「どうやって測定するの?」とか「どうやって良い悪いを判断するの?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。
本記事では、絶縁抵抗を測定するうえでの判断基準や測定方法について、基本的なところをできるだけ分かりやすく解説をしていきます。
絶縁抵抗値の測定は電気の保全業務では欠かせない作業です。是非、方法と判定基準をマスターしてくださいね。
絶縁抵抗とは?
絶縁抵抗とは絶縁体の抵抗(電気の通しにくさ)のことを言います。
電気が流れる電線や機器は、電気が外に漏れ出ないよう絶縁物で覆って対策を行っています。電線であれば導体を覆う外皮であったり、電磁接触器などの電気機器はプラスチック製のケースがそれに当たります。
それら絶縁体の性能は数値によって表され、この数値化したものを絶縁抵抗値と呼びます。
絶縁抵抗値は大きければ大きいほど外に電気が漏れにくくなるので、回路の絶縁状態は良好と判断できます。ですが絶縁抵抗値が小さくなればなるほど、電気が外に漏れ出したり電線同士が短絡(ショート)したりしやすくなるので、漏電や短絡による火災や感電のなどの危険性が高くなります。
絶縁抵抗値測定の目的
絶縁抵抗値の測定は様々な事故を防止する為に行うとても重要な作業です。
電気事故を未然に防ぐ
絶縁抵抗値測定は、感電などの電気事故を未然に防ぐために非常に重要な作業です。
電気は人の目には見えないものですから、設備を使用する作業者が漏電状態であることを知らずに素手で触ってしまう可能性があります。作業者の安全を守るためにも、定期的な絶縁抵抗値測定を行うことは必須と言えます。この測定作業によって問題があれば適切な対処を事前に行うことができます。
電気火災の予防
絶縁抵抗値測定は火災予防にも繋がる重要な作業です。適切な絶縁状態が保たれているかを定期的にチェックすることで、漏電やショートによる火災のリスクを低減することができます。
絶縁抵抗値の測定準備
絶縁抵抗値を測定するための準備について、その手順を説明していきます。
1)測定機器を準備する
まずは絶縁抵抗値を測定するための測定器を準備します。
絶縁抵抗値は「絶縁抵抗計」と呼ばれる計器を使って測定します、絶縁抵抗計は通称「メガ」とか「メガテスター」とも呼ばれます。
このような見た目の計器ですね。絶縁抵抗計は黒色のワニ口クリップ(EARTH)と赤色のテストリード(LINE)が接続されていて、テストリードから直流電圧を発生させて対象の絶縁抵抗値を測定できる仕組みになっています。
絶縁抵抗計には測定した絶縁抵抗値を写真のようにアナログで表示するものと、デジタルで表示できるものと2種類ラインナップがあります。
デジタル表示の方が正確な数値を読み取りやすいのでおすすすめですが、アナログ表示の場合は数値の変化が見やすいというメリットがあります。
デジタルかアナログかは最終的には好みなので、使いやすい方を選択して頂ければと思います。
ちなみに、僕が愛用している絶縁抵抗計はHIOKIのIR4051です。
HIOKIのIR4052はテストリードに測定ボタンが付いているのでとても便利です。購入されるならこちらの方がおすすめです。
絶縁抵抗計は乾電池で動きますので、電池の残量にも気をつけましょう。
2)安全保護具を着用する
絶縁抵抗値を測定する作業においては感電等のリスクがあります。
測定作業を行う前に必ず絶縁手袋などの保護具を準備し、着用してから作業に取りかかるようにしてください。絶縁手袋がない場合は、最低限軍手だけでも必ず着用してください。素手での作業は厳禁です。
3)測定対象の回路の電源を切る
絶縁抵抗値測定の準備が出来たら、測定したい対象の回路の電源を切ります。
回路が活線状態だと危ないですし、そもそも正常な絶縁抵抗値が測定出来ませんので、必ず回路の電源を切って無電圧状態であることを確認しましょう。
尚、直流電圧を印加したときに余計な箇所に電圧が掛からないよう、ブレーカ類はできるだけ遮断しておいてください。
4)測定する箇所を図面で再確認する
絶縁抵抗計で直流電圧を印加する前に、回路のどの部分を測定するのか必ず確認しましょう。
例えばモーターの絶縁抵抗値を測定するのであれば、測定したいモーターの配線がどれであるかを確認する必要がありますし、電源側の絶縁抵抗値を測定したいのであれば、ブレーカのどの部分を測定するのかといった具合ですね。
測定する箇所を間違えないように必ず図面等でチェックするようにしてください。
5)精密機器が接続されていないか確認する
測定する箇所に精密機器が接続されていないか必ず確認してください。
よくあるのが、絶縁抵抗値を測定したいモーターに駆動用のインバータが接続されているケースです。
絶縁抵抗計はかなり高めの直流電圧を印加して絶縁抵抗値を測定することになります。その電圧が掛かる部分にインバータや電源装置などが接続されていると、故障してしまう可能性があります。
もし、インバータなどの機器が接続されている場合は、配線を離線して直流電圧が機器に掛からないように処置してください。
6)掛ける電圧のレンジを選択する
次に、測定したい回路の電源電圧から印加する直流電圧のレンジを選択します。
直流電圧のレンジは最大1,000Vまでが一般的ですが、やみくもに高い電圧を掛ければ良いというものではありません。回路の電源電圧に対して大きな電圧レンジを選択してしまうと、回路上の機器が耐えきれずに破損してしまう可能性があります。必ず図面等でチェックして適正な電圧レンジを選択してください。
電圧レンジ | 使 用 例 |
25〜50V | 電話回線関係 |
100〜125V | 100Vまでの制御機器 もしくは配線 |
250V | 200Vまでの機器 もしくは配線 |
500V | 600V以下の機器 もしくは配線 |
1,000V | 600Vを超える機器 もしくは配線 |
高圧ケーブル 及び高圧機器 |
工場内設備の保全で絶縁抵抗値を測定する場合、電源電圧がAC200Vのときは250Vのレンジ、AC400Vのときは500Vのレンジをよく使用します。
新設クレーンなどの新しい装置で絶縁抵抗値を測定するような場合には、電源電圧がAC200Vであっても500Vレンジを使うこともあります。
使用する絶縁抵抗計によってはレンジのバリエーションが少なかったり、500Vレンジしかない単レンジタイプもあったりしますので、測定したい回路にご自分の絶縁抵抗計が対応しているか事前に確認しておきましょう。
7)ワニ口クリップを接地側(アース側)に繋ぐ
測定レンジを切り替えたら、絶縁抵抗計に接続されている黒色のワニ口クリップを回路の接地線に接続します。
接地線が制御盤などの金属製ケースに接続されている場合は、ワニ口を制御盤の金属部分がむき出しになっているところに挟んでも良いでしょう。
場合によっては、クレーンのワイヤーロープやモーターのケースなど、近くにある金属部品や筐体にワニ口クリップを取り付けることもあります。
8)絶縁抵抗計の0Ωをチェックする
次に、ワニ口クリップを接続した接地線に赤色のテストリードを当てて測定ボタンを押します。
引用先:HIOKI GENNECT(絶縁抵抗の測定方法)
ワニ口クリップを接続した接地線にテストリードで電圧を掛けるわけですから、正常であれば絶縁抵抗計は「0Ω」を示します。
ワニ口クリップを接地線に接続した状態で制御盤などの金属筐体にテストリードを当てて、こちらでも「0Ω」であることを確認できれば尚良いです。
ここまでが絶縁抵抗を測定するための前準備になります。
絶縁抵抗値の測定
それではいよいよ絶縁抵抗値の測定に入っていきます。
1)回路の周辺から人払いする
絶縁抵抗値の測定中は回路に直流電圧が印加されますので、万が一作業者が回路の近くで作業をしていると感電する恐れがあります。
必ずこれから測定作業を行う旨を周囲の作業者に周知し、測定中は回路に触れたり近づいたりしないよう人払いを行ってください。
2)測定対象の回路にテストリードを当てる
引用先:HIOKI GENNECT(絶縁抵抗の測定方法)
ワニ口クリップを接地側に接続した状態で、測定したい回路にテストリードを当てます。
測定箇所を間違えないよう十分確認してから行うようにしましょう。
ちなみに、配線と配線との間の絶縁抵抗値を測定したい場合は、ワニ口クリップとテストリードをそれぞれ測定したい箇所に接続することで、線間の絶縁抵抗値が測定できます。
3)絶縁抵抗計の測定ボタンを押す
テストリードを測定したい回路に当てたら測定ボタンを押します。測定ボタンを押し続けることで、設定したレンジの直流電圧が回路に印加され、絶縁抵抗値が測定されます。
4)測定値を読み取る
正常に測定がされると絶縁抵抗計に回路の絶縁抵抗値が表示されます。
引用先:HIOKI【FAQ(よくある質問)】
ここで注意点ですが、絶縁抵抗計に表示された数値はすぐ読み取らないでください。
理由は、絶縁抵抗計で測定している絶縁抵抗値は時間的に変化するという性質を持っているからです。
測定直後は絶縁抵抗計からの充電電流が大きいため、絶縁抵抗値が小さめに表示される傾向にあります。時間が経過すると充電電流が小さくなって安定し、絶縁抵抗値は一定の数値を示すようになります。
なので、絶縁抵抗値は表示される数値が安定するまで待ってから読み取るようにしましょう。
尚、大体の絶縁抵抗計には測定ボタンを押した状態でキープできる機構が備わっています。
HIOKIの場合は写真のようにレバーを起こすと、測定ボタンを押した状態でキープすることができます。共立電気計器の場合は測定ボタンを回すことで押した状態をキープすることが可能です。
これらの機構を活用しましょう。
5)溜まった電気を放電する
絶縁抵抗値の測定が終わったら回路に溜まった電気を放電します。
絶縁抵抗計で電圧を掛けることによって回路の中に電気(電荷)が溜まり、そこに触れることで感電などの危険性が高くなります。
測定箇所を接地線に直接触れさせるか、接地線に繋いだ仮配線を使って測定箇所に触れるかなどすると、接地線を通じて溜まった電気が放電されます。
僕は絶縁抵抗値の測定前に別途ワニ口クリップを準備しておき、測定が終わった箇所と接地線をワニ口クリップで接続して放電を行っています。
配線の長い箇所など、静電容量が大きい回路については特に電気が溜まりやすいため、測定後の放電は確実に行ってください。
尚、最近の絶縁抵抗計はテストリードを触れた状態で測定ボタンをOFFにすることで、溜まった電荷を自動で放電してくれる機能が付いているものもあります。
自動放電機能付きのものであれば測定作業がより安全に行えるようになりますので、是非検討して頂ければと思います。
絶縁抵抗値の判定基準
測定した絶縁抵抗値はどのように合否を判断すれば良いのでしょうか?
絶縁抵抗値の判定基準は「電気設備技術基準58条」で以下のように定められています。
電路の使用電圧区分 | 絶縁抵抗値 |
300V以下の対地電圧150V以下 | 0.1MΩ以上 |
300V以下の対地電圧150V超過 | 0.2MΩ以上 |
300V超過 | 0.4MΩ以上 |
例えば電源電圧がAC100Vの回路であれば絶縁抵抗値が0.1MΩ以上、AC200Vの回路であれば0.2MΩ以上、AC400Vの回路であれば0.4MΩ以上でそれぞれ合格ということになります。
ただし、次の点に注意してください。
電気設備技術基準の判定基準はあくまで最低値である
電気設備技術基準の判定基準はあくまで最低値であり、この数値を下回ると即絶縁不良と判定され、回路としては使うことができなくなってしまいます。
絶縁抵抗値は大きいに超したことはありません、低下している原因を調査し、できる限り数値が大きくなるよう処置や対策を行って頂ければと思います。
絶縁抵抗値は無限大が理想、100MΩ以上あればベター、5MΩ以上あれば及第点といった感じでしょうか。
絶縁抵抗値が突然低下していたら要注意
定期的に絶縁抵抗値を測定している中で、突然絶縁抵抗値が低下していたら、たとえ上記の判定基準を満たしていても要注意です。
配線などが劣化して段々絶縁抵抗値が落ちてきているのであれば、それは健全な劣化による絶縁低下ですが、ある日突然いきなり絶縁抵抗値が低下しているような場合には何かの不具合が発生している可能性が高いです。
これについても、絶縁低下の原因を調査してできるだけ速く是正を行ってください。
新設設備はこの判定基準に当てはめない
新規で設置した設備の絶縁抵抗値が判定基準ギリギリである場合、たとえ設備技術基準上は合格だったとしても、健全な状態であるとは言えません。
新設設備は使用する機器や配線が新品であるため、本来であれば0.1〜0.4MΩ程度になることはあり得ないからです。
電気設備技術基準では、新設設備の絶縁抵抗値は1MΩ以上が望ましいと言われています。足を引っ張っている原因が必ずあるはずなので、できる限り絶縁低下の回復に努めて頂けばと思います。
絶縁抵抗値は定期的に測定しよう
以上、絶縁抵抗値の測定方法や判定基準についてお伝えしました。
絶縁抵抗値の測定は半年に1回、最低でも1年に1回、定期点検に合わせて行うことが重要です。また、新たな電気設備が導入された際や大規模な修理や改修が行われた際にも、絶縁抵抗値の測定を行うことが推奨されます。
絶縁抵抗値の測定を定期的に実施することで、設備の異常な状態を未然にキャッチして対処することが可能になります。
設備の健康・作業者の安全を守るためにも、是非本記事を参考にして頂ければ幸いです。